第3章 化学結合

金属結合と金属の性質

金属がなぜ電気を通し、叩いても割れずに広がり、独特の輝きをもつのか。
その答えはすべて、金属の内部を自由に動き回る自由電子にあります。
この記事では、金属結合のミクロな仕組みから、4つの特徴的な性質と合金までを一気に理解します。

1金属結合とは

アルミニウムや銅などの金属元素の原子は、イオン化エネルギーが小さく、価電子を放出しやすい性質をもちます。金属元素の原子が集まると、それぞれの原子の電子殻の一部が重なり合い、価電子が各原子の電子殻を横断して自由に移動できるようになります。

このように、特定の原子に束縛されず金属全体を動き回る価電子を自由電子(free electron)といいます。そして、この自由電子が金属の陽イオンどうしを結びつける結合を金属結合(metallic bond)といいます。

金属結合のイメージ

金属結晶の中では、金属の陽イオンが規則正しく並び、その間を無数の自由電子が「電子の海」のように流れています。陽イオンはこの電子の海に浸かることで互いに引き合い、結合が保たれます。

自由電子は特定の陽イオンに固定されているのではなく、結晶全体で共有されています。これがイオン結合や共有結合との決定的な違いです。

金属結合によってできた結晶を金属結晶(metallic crystal)といいます。金属結晶は多数の原子が金属結合で結びついているため、化学式には組成式を用います(例:アルミニウム Al、銅 Cu)。

本質:「電子の海」モデルで覚える

金属結合=陽イオンの海に自由電子が流れている状態。この1つのイメージが頭に入れば、金属の4つの性質すべてを自力で導けます。

2金属の性質 ─ 4つの特徴とそのミクロな理由

金属が示す特徴的な性質は、すべて自由電子の存在によって説明できます。

金属光沢

金属は特有の輝き(金属光沢)を示します。これは、自由電子のはたらきによって、外部から当たった光がよく反射されるためです。自由電子が光のエネルギーを吸収・再放出することで、金属表面が輝いて見えます。

電気伝導性・熱伝導性

金属は電気や熱をよく通します(電気伝導性熱伝導性)。これは、自由電子が結晶中を自由に移動できるためです。電場をかけると自由電子が一方向に流れて電流となり、熱が加わると自由電子がエネルギーを運んで熱を伝えます。

金属が電気を通すのはなぜか
金属の価電子は特定の原子に束縛されず、結晶全体を自由に動き回れる(自由電子)
電圧(電場)をかけると、自由電子が一方向へ移動する
電子の定向移動が電流となる
金属は電気をよく導く(電気伝導性が高い
発展:温度が上がると電気が通りにくくなる理由化学

一般に、金属は高温になるほど電気伝導性が小さくなります。これは、温度が高くなると結晶中の陽イオンが激しく振動するようになり、自由電子が移動しにくくなるためです。半導体(シリコンなど)は逆に、温度が上がると電気伝導性が大きくなります。この違いは入試で問われやすい点です。

展性・延性

金属は、叩くと薄く広がる性質(展性、malleability)と、引っ張ると細く延びる性質(延性、ductility)をもちます。

これは、外力が加わって陽イオンの位置がずれても、自由電子が結晶全体に共有されているため、金属結合が切れずに保たれるからです。

イオン結晶では外力によってイオンの配列がずれると同符号のイオンが隣り合って反発し、割れてしまいます。一方、金属では陽イオンがどの位置にあっても自由電子の海に浸かった状態が保たれるため、割れずに変形します。

注意:イオン結晶と金属結晶の外力に対する違い

イオン結晶は外力に対してもろく(割れやすい)、金属結晶は展性・延性を示す(変形しやすい)。この対比は記述問題で頻出です。「自由電子があるから位置がずれても結合が保たれる」という理由まで書けるようにしておきましょう。

金属の性質まとめ

性質具体的な現象自由電子との関係
金属光沢 特有の輝きがある 自由電子が外部の光を反射する
電気伝導性 電気をよく通す 自由電子が電場の方向に移動して電流になる
熱伝導性 熱をよく伝える 自由電子が熱エネルギーを運ぶ
展性・延性 叩いて広げる・延ばせる 陽イオンがずれても自由電子が結合を維持する

3合金

金属に他の金属(または非金属元素)を溶かし合わせてつくられたものを合金(alloy)といいます。合金はもとの金属とは異なる性質を示し、純粋な金属では得られない特性を実現できます。

  • さびにくくなる(耐食性の向上)
  • 硬さや強度が増す
  • 電気伝導性が変化する(ニクロムなど)
  • 融点が下がる(はんだなど)

身のまわりで利用される金属の多くは、純金属よりも合金の形で用いられています。

名称主な成分主な性質利用例
ステンレス鋼 Fe, Cr, Ni, C さびにくい(Cr の酸化物被膜が内部を保護) 台所用品、工具、鉄道車両
黄銅(真ちゅう) Cu, Zn 黄色の光沢、さびにくく展性に富む 金管楽器(ホルン)、五円硬貨
青銅(ブロンズ) Cu, Sn 加工しやすく、耐食性に優れる 銅像、釣り鐘、美術工芸品
白銅 Cu, Ni 白色の光沢、加工性・耐食性に優れる 五十円硬貨、百円硬貨
ジュラルミン Al, Cu, Mg, Mn 軽くて強度が高い 航空機の機体、鉄道車両
ニクロム Ni, Cr 電気抵抗が比較的大きく、発熱しやすい 電熱線、ドライヤー
無鉛はんだ Sn, Cu, Ag 融点が適度に低い(300℃以下) 金属どうしの接合(電子基板など)
水素吸蔵合金 La, Ni など 多量の水素を吸収・放出できる ニッケル水素電池の負極

4この章を俯瞰する

第3章では「化学結合と結晶」として、4種類の結合と4種類の結晶を扱いました。金属結合はその最後のピースです。

結合の種類構成粒子結晶の種類展性・延性電気伝導性(固体)
金属結合 金属の陽イオン+自由電子 金属結晶 あり あり
イオン結合 陽イオン+陰イオン イオン結晶 なし(もろい) なし
共有結合 原子(非金属元素) 共有結合の結晶 なし(非常に硬い) なし(黒鉛は例外)
分子間力 分子 分子結晶 なし(軟らかい) なし
  • 3-4 イオン結合との対比:イオン結晶はもろく展性・延性がない。金属結晶は自由電子のおかげで変形できる。この対比は記述問題の定番。
  • 3-5 分子間力・水素結合との対比:金属の融点は一般に高い(金属結合は強い)が、アルカリ金属のように比較的低いものもある。価電子数が多いほど金属結合が強くなる。
  • 3-7 結晶の分類:次の記事では4種類の結晶の性質を比較表で整理する。今回学んだ金属結晶の特徴を他の結晶と比較できるようにしておこう。

確認テスト

Q1. 金属結合において、特定の原子に束縛されず金属全体を動き回る価電子を何というか。

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自由電子(free electron)

Q2. 金属が展性・延性を示す理由を「自由電子」という語を用いて説明せよ。

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外力が加わって陽イオンの位置がずれても、自由電子が結晶全体を移動して金属結合を維持するため、割れずに変形できる。

Q3. 銅(Cu)と亜鉛(Zn)の合金を何というか。また、その主な利用例を1つ答えよ。

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黄銅(真ちゅう)。利用例:金管楽器(ホルン)、五円硬貨など。

Q4. 金属の電気伝導性について正しいものを選べ。
① 温度が高くなるほど電気伝導性は大きくなる
② 温度が高くなるほど電気伝導性は小さくなる
③ 温度と電気伝導性は無関係である

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②。高温になると結晶中の陽イオンが激しく振動し、自由電子が移動しにくくなるため、電気伝導性は小さくなる。(半導体は逆に温度が上がると電気伝導性が増す。)

5入試問題演習

問題A A 金属結合・金属の性質

金属の性質に関する次の記述のうち、正しいものをすべて選べ。

  • ① 金属が金属光沢を示すのは、自由電子が外部からの光を吸収・反射するためである。
  • ② 金属は電気をよく導くが、熱は導かない。
  • ③ 金属に外力を加えると、陽イオンの位置がずれて割れてしまう。
  • ④ 金属の温度を上げると、電気伝導性は一般に低下する。
  • ⑤ 金属結晶は組成式で表される。
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答え

①、④、⑤

解説

①正しい。自由電子のはたらきで光が反射され、金属光沢が生じる。

②誤り。自由電子は熱エネルギーも運ぶため、金属は熱もよく導く(熱伝導性が高い)。

③誤り。外力で陽イオンがずれても自由電子が結合を維持するため、金属は展性・延性を示し割れない(イオン結晶がもろいことと対比させよう)。

④正しい。高温になると陽イオンが激しく振動し、自由電子の移動が妨げられるため電気伝導性は低下する。

⑤正しい。金属結晶は多数の原子が金属結合で結びついているため、組成式(例:Cu、Al)で表す。

問題B B 合金・記述

次の各合金の名称と主な成分元素の組み合わせとして正しいものを選べ。また、下の問いに答えよ。

名称主な成分
ジュラルミンCu, Sn
青銅(ブロンズ)Cu, Sn
黄銅(真ちゅう)Cu, Ni
ステンレス鋼Fe, Cr, Ni

問:ステンレス鋼がさびにくい理由を、含まれる元素に触れながら簡潔に説明せよ。

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答え

正しい組み合わせ:イ(青銅:Cu, Sn)、エ(ステンレス鋼:Fe, Cr, Ni)

ア(ジュラルミン)の主な成分:Al, Cu, Mg, Mn(Cuだけでなくアルミニウムが主成分)

ウ(黄銅)の主な成分:Cu, Zn(NiではなくZn)

問:Crが表面に酸化物の被膜をつくり、内部の鉄が空気・水分と直接触れるのを防ぐため。

解説

合金の成分は混乱しやすいので、代表的なものを確実に覚えよう。銅系合金(黄銅=Cu+Zn、青銅=Cu+Sn、白銅=Cu+Ni)は特に出題頻度が高い。

ステンレス鋼のさびにくさは「Crの不動態(酸化被膜)」によるもの。被膜が表面を覆って鉄の腐食を防ぐ。同様の仕組みはアルミニウム(Al₂O₃の被膜)にもある。

採点ポイント(記述問題)
  • 「クロム(Cr)が酸化物の被膜をつくる」という事実
  • 「内部の鉄(Fe)を保護する」という結果
問題C C 金属結合・展性・イオン結晶との比較

金属結晶とイオン結晶では、外力を加えたときの変形のしかたが異なる。それぞれについて、外力を加えたときに何が起こるかをミクロな観点から説明し、金属が展性・延性を示す一方、イオン結晶がもろい(割れやすい)理由を比較して論述せよ。

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解答例

金属結晶では、外力によって陽イオンの位置がずれても、自由電子が結晶全体を移動して陽イオンを結びつけ続けるため、金属結合は切れない。そのため、金属は割れずに薄く広がったり(展性)細く延びたり(延性)する。

一方、イオン結晶では、外力によってイオンの層がずれると、同符号のイオンどうし(陽イオン同士・陰イオン同士)が隣り合う配置になり、静電気力による反発が生じる。この反発が結晶を破壊するため、イオン結晶は外力に対してもろく、割れやすい。

解説

この問題は「金属結合とイオン結合の本質的な違い」を問う典型的な記述問題です。金属は「自由電子が結合を維持する」、イオン結晶は「同符号イオンが隣り合って反発する」という2点を対比させて書くことがポイントです。

採点ポイント
  • 金属:自由電子が位置のずれに関わらず結合を維持することを記述
  • イオン結晶:同符号イオンの反発(静電気的反発)が生じることを記述
  • 2つを対比する形で論述できているか