「なぜ食塩は水に溶けるのか」「なぜ油は水に溶けないのか」——これらの疑問は、粒子レベルの力の釣り合いで説明できます。
この記事では、溶解の定義から始まり、イオン結晶・極性分子・無極性分子それぞれの溶解のしくみ、固体の溶解度と溶解度曲線、再結晶、そして気体のヘンリーの法則まで体系的に学びます。
溶解とは、溶質の粒子どうしが切り離され、溶媒と均一に混ざり合う現象です。他の物質を溶かしている液体を溶媒、溶けている物質を溶質といい、溶解によって生じた混合物を溶液といいます。溶媒が水の場合は特に水溶液とよびます。
溶質の分子やイオンが溶媒分子と結びつく現象を溶媒和といい、溶媒が水の場合を特に水和といいます。水和した状態のイオンを水和イオンとよびます。分子やイオンが溶媒和の状態にあるとき、その分子やイオンは溶媒に溶解しているといいます。
溶解は「溶質粒子どうしの引力」と「溶媒分子どうしの引力」を断ち切り、かわりに「溶質粒子と溶媒分子の間の引力」(溶媒和)を形成する現象です。後者の力が前者の力と同程度かそれ以上であれば、溶質は溶媒に溶けます。「似た者が溶け合う」(like dissolves like)という経験則は、この原理から導かれます。
塩化ナトリウム NaCl の結晶を水に入れると、結晶表面のナトリウムイオン Na+ に、水分子 H2O 中の負に帯電した O 原子が静電気的引力によって引きつけられます。また、塩化物イオン Cl− には水分子中の正に帯電した H 原子が引きつけられます。
こうして Na+ と Cl− が水分子に囲まれ(水和)、結晶からはがれて水中に分散します。この過程が結晶全体で進むことで NaCl が水に溶解します。
エタノール C2H5OH やスクロース(ショ糖)C12H22O11 は水によく溶けます。これは、分子中に極性の大きいヒドロキシ基 −OH が存在し、水分子との間に水素結合を形成して水和するためです。
塩化水素 HCl のように、水に溶けて電離する極性分子もあります。HCl は水中でオキソニウムイオン H3O+ と塩化物イオン Cl− に電離し、各イオンが水和して溶解します。
HCl + H2O → H3O+ + Cl−
ヨウ素 I2 やナフタレン C10H8 のような無極性分子は水に溶けにくいです。これは、水分子どうしには強い静電気的引力がはたらいているため、無極性分子が水分子間に入り込めないためです。
一方、ヨウ素やナフタレンはヘキサンなどの無極性溶媒にはよく溶けます。溶質と溶媒の分子間にはたらく力が同じ程度(いずれも弱いファンデルワールス力)であるため、分子の熱運動によって拡散してよく混ざり合います。
溶質と溶媒が「似た極性」をもつとき、よく溶けます。
| 溶媒 | よく溶ける溶質 | 溶けにくい溶質 |
|---|---|---|
| 水(極性溶媒) | イオン結晶(NaCl)、極性分子(エタノール) | 無極性分子(I2、ヘキサン) |
| ヘキサン(無極性溶媒) | 無極性分子(I2、ナフタレン) | イオン結晶(NaCl)、極性分子 |
一定温度で、一定量の溶媒に溶ける溶質の量には限度があります。溶媒に溶質の固体を徐々に加えていくと、やがてそれ以上溶けなくなります。この状態の溶液を飽和溶液といいます。
飽和溶液中に固体が存在するとき、表面では単位時間あたりに溶解する粒子の数と析出する粒子の数が等しくなり、見かけ上溶解が停止しています。この状態を溶解平衡といいます(溶解と析出は常に起こっており、動的な平衡状態です)。
一定量の溶媒に溶ける溶質の最大限の量を溶解度といいます。固体の溶解度は一般に、溶媒(水)100 g に溶ける溶質の最大限の質量をグラム単位で示した数値で表されます。
溶解度は溶媒・溶質の種類によって異なり、温度によっても変化します。物質の溶解度と温度の関係を表すグラフを溶解度曲線といいます。
硫酸銅(II)五水和物 CuSO4・5H2O のような結晶水をもつ物質の溶解度は、無水塩 CuSO4 の質量の数値で表します。水和物が溶解するとき、結晶水は溶媒である水の一部となるため、「溶媒の水 = 加えた水 + 結晶水」として計算します。
少量の不純物を含む物質を溶媒に溶かし、温度による溶解度の差などを利用して、溶液から再びその物質を析出させて精製する操作を再結晶といいます。
例えば、KNO3(溶解度が温度に敏感)に少量の NaCl(溶解度の温度変化が小さい)が混じっている場合、高温で飽和溶液にしてから冷却すると、KNO3 は大量に析出しますが NaCl の析出量は少なく、KNO3 を精製できます。
パターン1:冷却による析出量
温度 T1 で飽和水溶液の質量 W [g] を温度 T2 に冷却したとき、析出量を求める。
パターン2:水和物の析出
冷却で析出するのは無水塩ではなく水和物であるため、析出する水和物の質量は無水塩の質量 × (水和物のモル質量 ÷ 無水塩のモル質量) で求める。
気体も溶媒に溶けます。気体の溶解度は、気体の圧力が 1.013×105 Pa のとき、溶媒 1 L に溶ける気体の物質量 [mol]、または溶ける気体の体積 [mL] で表されます。
温度との関係:一般に、気体の溶解度は温度を上昇させると減少します。温度が高くなると気体分子の熱運動が激しくなり、溶液中から飛び出しやすくなるためです(固体の溶解度とは逆の傾向)。
1805 年にヘンリー(イギリス)によって見いだされた法則です。
溶解度の小さい気体の場合、一定温度で、一定量の溶媒に溶解する気体の物質量(または質量)は、その気体の圧力(混合気体では分圧)に比例する。
例えば、ある気体が圧力 P で水 1 L に n [mol] 溶けるとき、圧力を 2P にすると 2n [mol] 溶け、3P にすると 3n [mol] 溶けます。
気体の溶解量を、気体を溶かしたときの圧力における体積で表すと、圧力の変化に関係なく、体積は一定になります。これは、気体の溶解量が圧力に比例して増えても、気体の体積はボイルの法則にしたがって小さくなるためです。体積で比較する場合は、0 ℃・1.013×105 Pa に換算して同じ条件で表すことが多いです。
塩化水素 HCl やアンモニア NH3 のように水に非常によく溶ける気体では、溶解した後にイオン化や化学反応が起きるため、ヘンリーの法則が成立しません。ヘンリーの法則は「溶解度の小さい気体」(N2、O2、CO2など)に適用します。
| 気体 | 水への溶けやすさ | ヘンリーの法則 | 理由 |
|---|---|---|---|
| N2、O2、CO2、H2 | 溶けにくい〜少し溶ける | 成立 | 単純な物理的溶解 |
| HCl、NH3 | 非常によく溶ける | 成立しない | 溶解後にイオン化・反応が起きる |
第10章「溶液の性質」は、溶解のしくみ(10-1)から希薄溶液の性質・コロイドまで広がります。10-1 で学んだ概念がどこへつながるかを整理しましょう。
Q1. NaCl が水に溶けるしくみを「水和」という語を使って説明してください。
Q2. ヨウ素は水に溶けにくいがヘキサンに溶けやすい。この理由を「極性」という語を使って説明してください。
Q3. 固体の溶解度と気体の溶解度について、温度との関係をそれぞれ述べてください。
Q4. ヘンリーの法則を述べ、塩化水素 HCl がこの法則に従わない理由を説明してください。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
溶解に関する次の記述のうち、正しいものをすべて選べ。
①③⑤
① 正しい。固体の溶解度は一般に温度上昇で増加(NaCl など例外あり)。② 誤り。気体の溶解度は温度上昇で減少。③ 正しい。I2 は無極性分子であり「似たものが溶け合う」原則から無極性溶媒によく溶ける。④ 誤り。HCl は水中で電離するため、ヘンリーの法則は成立しない。⑤ 正しい。これが溶解平衡の定義です。
硝酸カリウム KNO3 の溶解度は、60 ℃ で 110、20 ℃ で 32 である。60 ℃ における KNO3 の飽和水溶液 210 g を 20 ℃ に冷却すると、KNO3 は何 g 析出するか。
78 g
60 ℃ の飽和水溶液は水 100 g に KNO3 が 110 g 溶けた状態なので、溶液 210 g 全体に対して析出量 x [g] は比例する。
60 ℃ と 20 ℃ の溶解度の差 = 110 − 32 = 78 g(水 100 g あたり)
60 ℃ の飽和水溶液 100 + 110 = 210 g に対する析出量 = 78 g
飽和水溶液 210 g を冷却すると、析出量 x = 78 × (210 ÷ 210) = 78 g
(ただし析出後の溶液は 20 ℃ で飽和しているため、より厳密には以下で確認する)
析出後の水の量 = 100 g、20 ℃ で溶解している KNO3 = 32 g。溶液中の KNO3 の総量 = 110 g、析出量 = 110 − 32 = 78 g(答:78 g)
窒素 N2 は 0 ℃、1.0×105 Pa で水 1.0 L に 1.1×10−3 mol 溶ける。次の各問いに答えよ。ただし、窒素はヘンリーの法則に従うものとする。
(1) 0 ℃、5.0×105 Pa で水 2.0 L に溶ける窒素の物質量を求めよ。
(2) 体積で溶解量を表す場合、0 ℃、2.0×105 Pa で水 1.0 L に溶ける窒素の体積は、0 ℃、1.0×105 Pa に換算すると何 mL か。
(1) 1.1×10−2 mol
(2) 2.2×101 mL(約 22 mL)
(1) ヘンリーの法則より、溶解量は圧力と溶媒量に比例する。
圧力が 1.0×105 Pa の 5 倍 → 溶解量は 5 倍。溶媒量が 1.0 L の 2 倍 → 溶解量は 2 倍。
溶解量 = 1.1×10−3 × 5 × 2 = 1.1×10−2 mol
(2) 2.0×105 Pa で水 1.0 L に溶ける物質量 = 1.1×10−3 × 2 = 2.2×10−3 mol
これを 0 ℃(273 K)・1.0×105 Pa の体積に換算する(理想気体として):
V = nRT/P = 2.2×10−3 × 8.3×103 × 273 / (1.0×105) ≈ 4.99×10−2 L ≈ 50 mL
※別解:0 ℃・1.0×105 Pa での気体 1 mol の体積 ≒ 22.4 L を使うと:2.2×10−3 mol × 22400 mL/mol ≒ 49 mL ≒ 約 49 mL
(注:参考書によって気体定数 R の値が異なるため、答えはおおよそ 49〜50 mL となる)