結晶を構成する粒子と粒子間の力の違いが、その結晶の硬さ・融点・導電性を決定します。
この記事では、共有結合が無限に連なる共有結合結晶、分子間力で集合した分子結晶、そして規則的配列をもたない非晶質(アモルファス)の3つを比較しながら理解します。
「なぜダイヤモンドは硬いのか」「なぜドライアイスは昇華するのか」を、粒子間の力から説明できるようにしましょう。
共有結合結晶とは、結晶中のすべての原子が共有結合のみで連なってできた結晶です。1つの共有結合を切断するためには大きなエネルギーが必要であり(例:O–H 結合で 463 kJ/mol)、そのような結合が無数に連なっているため、非常にかたく、融点の高いものが多いのが特徴です。
ダイヤモンドは、炭素原子が4 個の価電子をすべて使って 4 個の炭素原子と共有結合を形成しています。各炭素原子に結合する 4 個の炭素原子はそれぞれ正四面体の頂点に位置し、この構造が三次元的に無限に広がっています。
すべての炭素原子が共有結合に使われているため、自由電子が存在せず電気を導かないのも重要な特徴です。融点は 3550 ℃ と極めて高く、天然物質の中で最も硬い物質です。
二酸化ケイ素では、1 つのケイ素原子に結合する 4 つの酸素原子がそれぞれ正四面体の頂点に位置し、各酸素原子を隣のケイ素原子と共有することで、Si–O–Si の共有結合が三次元的に無限に広がっています。
水晶(石英)や砂(ケイ砂)はこの共有結合結晶であり、無色透明でかたく、融点が高く(約 1700 ℃)、電気絶縁性が高い。SiO2 を繊維状にしたものは光ファイバーに利用されます。フッ化水素酸(HF 水溶液)には溶けるが、塩酸などには溶けにくい点も特徴です。
炭化ケイ素は、ケイ素原子と炭素原子が交互に共有結合で連なった構造をもちます。ダイヤモンドと同じ正四面体型の結合配置をとるため、非常に硬く(モース硬度 9.5)、融点も約 2700 ℃ と高い。研磨材・耐熱材として工業的に広く利用されます。
共有結合結晶を変形・融解させるには、結晶内のすべての共有結合を切断する必要があります。共有結合は極めて強い力(数百 kJ/mol)であり、それが無数に連なっているため、外力にも熱にも容易に崩れません。「1 つの巨大な分子」とみなすこともできます。
| 物質 | 化学式 | 融点の目安 | 硬さ | 導電性 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| ダイヤモンド | C | 約 3550 ℃ | 最高(10) | なし | 研磨材、宝石 |
| 黒鉛(参考) | C | 約 3650 ℃(昇華) | 低い | あり | 電極、鉛筆 |
| 二酸化ケイ素 | SiO2 | 約 1700 ℃ | 高い | なし | 光ファイバー、ガラス原料 |
| 炭化ケイ素 | SiC | 約 2700 ℃ | 非常に高い | なし(半導体) | 研磨材、耐熱材 |
ダイヤモンドと同じ炭素からなる同素体の黒鉛も共有結合結晶に分類されますが、構造はまったく異なります。黒鉛では各炭素原子が3個の炭素原子と共有結合して正六角形の網目状の平面層をつくり、この層が弱い分子間力で重なり合っています。層間の力が弱いため薄くはがれやすく、鉛筆の芯として使えます。また、各炭素原子に1個ずつある非局在化した電子が層内を自由に動けるため、電気をよく導くという共有結合結晶としては例外的な性質をもちます。
分子結晶とは、多数の分子が分子間力によって集合してできた結晶です。共有結合・イオン結合・金属結合に比べて分子間力ははるかに弱いため、やわらかく、融点が低いものが多く、昇華しやすいものもあります。
二酸化炭素の固体がドライアイスです。CO2 分子は無極性分子であり、分子間にはファンデルワールス力(分散力)のみがはたらきます。この力が非常に弱いため、1.013×105 Pa(大気圧)のもとでは液体状態をとらず、−78.5 ℃ で直接気体に変化(昇華)します。
ドライアイスの結晶中では、CO2 分子が規則的に配列した分子結晶の典型例です。
ヨウ素も無極性分子(I2)からなる分子結晶であり、ファンデルワールス力で集合しています。常温では黒紫色の固体ですが、加熱すると昇華して紫色の蒸気を生じます。水に溶けにくく、ヘキサンなどの無極性溶媒にはよく溶けます。
ヨウ素の単位格子は直方体形で、I2 分子が各頂点と各面の中心に位置しています(面心直方格子)。
2 個のベンゼン環が縮合した構造をもつ無色板状結晶で、昇華性があります。特異臭をもち、防虫剤として利用されます。無極性分子であるため、水には溶けにくく、ベンゼンやヘキサンなどの無極性溶媒によく溶けます。
| 物質 | 分子間力の種類 | 融点 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ドライアイス(CO2) | ファンデルワールス力 | −56.3 ℃(加圧下) | 大気圧では昇華 |
| ヨウ素(I2) | ファンデルワールス力 | 114 ℃ | 昇華性あり、紫色蒸気 |
| ナフタレン(C10H8) | ファンデルワールス力 | 80 ℃ | 昇華性あり、防虫剤 |
| 氷(H2O) | 水素結合 + ファンデルワールス力 | 0 ℃ | 分子量の割に融点が高い |
固体には、構成粒子が規則的に配列した結晶と、不規則に配列した非晶質とがあります。非晶質(アモルファス)とは、原子や分子が長距離にわたる規則的配列をもたない固体のことです。
通常、融解した液体をゆっくり冷却すると結晶が得られますが、急冷すると構成粒子が規則正しく配列する前に固体になり、非晶質となります。
石英やケイ砂(SiO2)を約 2000 ℃ に加熱して融解させ、その液体を急冷すると石英ガラスが得られます。石英ガラスは光ファイバーに利用されるほか、耐食性・耐熱性に優れるため実験用器具にも使われます。
ソーダ石灰ガラスは SiO2 に Na2CO3(炭酸ナトリウム)と CaCO3(石灰石)を加えて融解・成形したものです。一般の窓ガラスや瓶ガラスとして広く使われています。
ケイ素 Si の結晶では Si 原子がダイヤモンドと同じ規則的配列をとっていますが、ケイ素の融解液を急冷するとアモルファスシリコンが得られます。結晶シリコンと比べて加工が容易で薄膜にでき、太陽電池の素材として広く利用されています。
2 種以上の金属を含む融解液を急冷すると、非晶質の合金が得られます。アモルファス合金とよばれ、強い強度を示すものや、優れた耐食性を示すものがあります。
結晶は構成粒子が規則正しく配列しているため、一定の温度(融点)で一斉に結合が切れます。一方、非晶質は構成粒子の配列が不規則で、結合の強さがばらばらであるため、明確な融点をもたず、温度上昇とともに徐々に軟化していきます。ガラスが高温で「とろける」ように変形するのはこのためです。
結晶は長距離秩序(遠くまで続く規則的配列)をもつのに対し、非晶質は短距離秩序(隣接する粒子間の局所的な構造)しかもちません。同じ組成でも、配列の規則性の有無によって性質が大きく異なります。例えば、結晶シリコンと非晶質シリコンは同じ Si でも電気的・光学的性質が異なり、異なる用途に使われます。
第9章では4種類の結晶(金属・イオン・共有結合・分子)と非晶質を学びました。以下の表でこれらを俯瞰し、「粒子間の力の強さ」という1つの軸で整理してください。
| 結晶の種類 | 構成粒子 | 粒子間の力 | 硬さ | 融点 | 導電性 |
|---|---|---|---|---|---|
| 金属結晶 | 金属原子 | 金属結合 | 様々 | 様々 | あり(固体・液体) |
| イオン結晶 | 陽・陰イオン | イオン結合 | 硬いが割れやすい | 高い | 融解液・水溶液のみ |
| 共有結合結晶 | 原子 | 共有結合 | 非常に硬い | 非常に高い | 基本なし(黒鉛除く) |
| 分子結晶 | 分子 | 分子間力 | やわらかい | 低い | なし |
| 非晶質 | 原子・分子 | 様々(不規則) | 様々 | 不明確(軟化) | 様々 |
Q1. 共有結合結晶が非常に硬く融点が高い理由を、粒子間の力に着目して説明してください。
Q2. ドライアイスが大気圧で昇華する(液体にならない)のはなぜですか。
Q3. 非晶質と結晶の違いを「粒子の配列」と「融点」の2点から説明してください。
Q4. ダイヤモンドと黒鉛はどちらも炭素の同素体ですが、なぜ黒鉛はやわらかく電気を導くのですか。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
次の(ア)〜(オ)の記述のうち、正しいものをすべて選べ。
(ア)(エ)(オ)
(ア) 正しい。ダイヤモンドはすべての炭素が共有結合に使われ自由電子がないため、電気を導きません。(イ) 誤り。黒鉛は共有結合結晶(分子結晶ではない)ですが、層内の非局在化電子により電気を導きます。(ウ) 誤り。ドライアイスは大気圧(1.013×105 Pa)では液体状態をとらず、固体から直接昇華します。(エ) 正しい。例えば結晶 Si とアモルファス Si は同じ組成でも電気的性質などが異なります。(オ) 正しい。共有結合は非常に強い力であり、分子間力に比べて融解に要するエネルギーがはるかに大きいため、融点が高くなります。
次の(1)(2)に答えよ。
(1) ダイヤモンドと塩化ナトリウム(イオン結晶)はどちらも固体で電気を導かないが、融点は大きく異なる(ダイヤモンド約 3550 ℃、NaCl 801 ℃)。この差を粒子間の力の違いから説明せよ。
(2) ヨウ素は分子量が 254 と大きいにもかかわらず、融点が 114 ℃ と比較的低い。この理由を結晶の種類に着目して述べよ。
(1) ダイヤモンドは共有結合結晶であり、結晶中のすべての炭素原子が共有結合で連なっている。共有結合は非常に強い(C–C 結合エネルギー約 346 kJ/mol)ため、融解にはこれを大量に切断する必要があり、融点が極めて高い。一方、NaCl のイオン結合は静電気的引力によるが、共有結合よりは弱く、融点は低い。
(2) ヨウ素は分子結晶であり、I2 分子間にはたらく力はファンデルワールス力のみである。共有結合やイオン結合に比べてはるかに弱いため、分子量が大きくてもイオン結晶や共有結合結晶より融点ははるかに低い。
「粒子間の力の種類と強さ」→「融解に必要なエネルギー」→「融点の高低」という論理の流れを意識してください。融点の序列は「共有結合結晶 >> イオン結晶 ≈ 金属結晶 >> 分子結晶」が基本です。
次の1〜5の物質について、以下の(1)(2)に答えよ。
(1) 結晶の種類(共有結合結晶・イオン結晶・分子結晶・金属結晶)に分類せよ。
(2) 次の性質(ア)〜(エ)に当てはまる物質を1〜5からすべて選べ。
(ア)固体は電気を導かないが、融解液は電気を導く。
(イ)固体も融解液も電気を導かない。
(ウ)非常に硬く、融点が 1000 ℃ を超える。
(エ)昇華性をもつか、融点が 200 ℃ 未満で低い。
(1) 1. 共有結合結晶 2. イオン結晶 3. 分子結晶 4. 分子結晶 5. 金属結晶
(2) (ア)2 (イ)1, 3, 4 (ウ)1 (エ)3, 4
(ア)固体では電荷の担体が固定されていて導電性がないが、融解するとイオンが動けるようになる → イオン結晶の特徴 → KCl(2)。
(イ)固体・融解液ともに電気を導かない → 共有結合結晶または分子結晶 → SiO2(1)・氷(3)・I2(4)。アルミニウム(5)は金属で常に電気を導くので除外。
(ウ)融点 1000 ℃ 超・非常に硬い → 共有結合結晶 → SiO2(1)(融点約 1700 ℃)。KCl の融点は 776 ℃、Al は 660 ℃。
(エ)氷(融点 0 ℃)、ヨウ素(融点 114 ℃・昇華性あり)が当てはまります。分子結晶は一般に融点が低い。