牛乳・豆腐・墨汁——これらはすべてコロイド溶液の仲間です。
粒子の大きさが1〜100 nmという「中間的」な存在が、真の溶液にはない独特の性質を生み出します。
チンダル現象・ブラウン運動・凝析・塩析の「なぜ」を粒子レベルで理解しましょう。
物質を水中に分散させたとき、分散している粒子の直径によって3種類の状態に分けられます。
| 分類 | 粒子径 | 例 | ろ紙通過 | 半透膜通過 |
|---|---|---|---|---|
| 真の溶液 | 10−9 m 未満(〜1 nm) | 食塩水・砂糖水 | 通過 | 通過 |
| コロイド溶液 | 10−9〜10−7 m(1〜100 nm) | 牛乳・豆腐・墨汁 | 通過 | 通過しない |
| 懸濁液(サスペンション) | 10−7 m 超 | 泥水 | 通過しない | 通過しない |
コロイド粒子は光学顕微鏡では観察できないほど小さく、ろ紙は通過しますが半透膜(セロハン膜など)は通過しません。この性質を利用した精製操作が透析です。
水との親和性が小さいコロイドを疎水コロイドといいます。金属の水酸化物(水酸化鉄(III)など)、硫黄、粘土などが代表例です。
疎水コロイドの粒子はコロイド粒子表面に電荷(正または負)を帯びており、粒子どうしが静電気的反発によって分散しています。この電荷のバランスが崩れると粒子が集まって沈殿します。
水との親和性が大きいコロイドを親水コロイドといいます。タンパク質(ゼラチン・アルブミンなど)やデンプンが代表例です。
親水コロイドの粒子表面には多数の水分子が引きつけられており(水和)、この水和層が安定な分散を保つ役割を果たします。少量の電解質を加えても沈殿しません。
セッケンのように、ある濃度(臨界ミセル濃度)を超えると多数の分子が集まってミセルとよばれる集合体をつくり、コロイド粒子の大きさになるものを会合コロイドといいます。
セッケン分子は疎水基(炭化水素鎖)を内側に、親水基(カルボキシ基など)を外側に向けてミセルを形成します。この構造が油汚れを取り込む洗浄作用の原理です。
| 種類 | 代表例 | 安定の要因 |
|---|---|---|
| 疎水コロイド | 水酸化鉄(III)・硫黄・粘土 | 粒子表面の電荷による反発 |
| 親水コロイド | タンパク質・デンプン | 粒子表面の水和層 |
| 会合コロイド | セッケン水・界面活性剤 | ミセル形成 |
コロイド溶液に横から強い光をあてると、光の通路が明るく輝いて見えます。これをチンダル現象といいます。コロイド粒子が光を散乱させるために起こります。
真の溶液(食塩水など)では粒子が小さすぎて光を散乱せず、チンダル現象は見られません。夕暮れの光芒や、日光が木漏れ日として見える現象も同じ原理(光散乱)です。
コロイド溶液を限外顕微鏡で観察すると、コロイド粒子が不規則な運動をしているのが見えます。これをブラウン運動といいます。
ブラウン運動は、熱運動を行う分散媒分子がコロイド粒子に不規則に衝突するために起こります。粒子が大きいほど(懸濁液など)、この運動は目立たなくなります。
コロイド溶液にU字管で直流電圧をかけると、コロイド粒子が陽極側または陰極側に移動します。これを電気泳動といいます。コロイド粒子が表面に電荷をもつため、電場の影響を受けて移動します。
コロイド溶液をセロハン膜(半透膜)の袋に入れて純水中に浸すと、コロイド粒子より小さなイオンや低分子化合物は膜を通って外に出ますが、コロイド粒子は残ります。この操作を透析といいます。
例えば、塩化鉄(III)を沸騰水に加えて生成した水酸化鉄(III)コロイド溶液には、H+とCl−が混在しています。透析によってこれらを除き、純粋なコロイド溶液を精製できます。医療における人工透析も同じ原理です。
凝析:疎水コロイドに少量の電解質を加えると、コロイド粒子の電荷が中和されて反発力が失われ、粒子どうしが集まって沈殿します。これを凝析といいます。
塩析:親水コロイドに多量の電解質を加えると、粒子表面の水和水が電解質のイオンに奪われ、粒子が集合して沈殿します。これを塩析といいます。少量の電解質では沈殿しない点が疎水コロイドと異なります。
| 疎水コロイド | 親水コロイド | |
|---|---|---|
| 少量の電解質 | 凝析する | 沈殿しない |
| 多量の電解質 | 凝析する | 塩析する |
| 安定の要因 | 表面電荷による反発 | 粒子表面の水和 |
補足:凝析の効果は反対符号のイオンの価数が大きいほど強くなります(シュルツェ・ハーディの規則)。正に帯電した水酸化鉄(III)コロイドに対しては、PO43−(3価)> SO42−(2価)> Cl−(1価)の順に少量で凝析が起こります。
疎水コロイドに親水コロイドを加えると、疎水コロイドの粒子が親水コロイドに取り囲まれて凝析しにくくなります。このはたらきを保護作用、保護作用を示す親水コロイドを保護コロイドといいます。墨汁中のにかわ(ゼラチン)が代表例です。
大豆のタンパク質(グロブリンなど)は親水コロイドとして水中に分散しています。豆乳ににがり(塩化マグネシウム MgCl2)や硫酸カルシウム CaSO4 を加えると、多価の陽イオン(Mg2+や Ca2+)が親水コロイドの電荷を中和し(塩析に近い作用)、タンパク質が固まって豆腐になります。
墨汁は炭素(すす)の微粒子からなる疎水コロイドです。そのままでは電解質(水道水の塩類など)によって凝析してしまいます。そこで、にかわ(ゼラチン:親水コロイド)が保護コロイドとしてはたらき、長期間安定に分散させています。
セッケン水中でセッケン分子はミセル(会合コロイド)を形成します。ミセルの内側は疎水基(炭化水素鎖)、外側は親水基(カルボキシ基)から成ります。油汚れ(非極性)が疎水基の内側に取り込まれ、親水基が外側を向くことで水中に分散(乳化)し、汚れを落とします。
| 分散媒 | 分散質 | 例 |
|---|---|---|
| 液体 | 液体 | 牛乳・マヨネーズ(乳濁液、エマルション) |
| 液体 | 固体 | 墨汁・豆腐 |
| 気体 | 固体・液体 | 煙・霧・雲(エーロゾル) |
| 固体 | 液体 | 寒天ゲル・バター |
コロイドの全ての性質は「粒子の大きさが1〜100 nm」という一点から導かれます。
Q1. コロイド溶液に横から光をあてると光の通路が輝く現象を何というか。
Q2. 疎水コロイドに少量の電解質を加えて沈殿させる操作を何というか。また、なぜ少量で起こるのか。
Q3. 疎水コロイドと親水コロイドで電解質添加による沈殿の起こりやすさを比べ、その理由とともに答えよ。
Q4. セッケン水がコロイドの性質を示す理由を説明せよ。
コロイド溶液に関する記述として誤っているものを、次の①〜⑤からすべて選べ。
③④
③ コロイド粒子はろ紙を通過する(ろ紙の目のサイズ:10−7〜10−5 m程度 > コロイド粒子径)。半透膜は通過しない。
④ 水酸化鉄(III)コロイドは表面が正に帯電しており、電気泳動では陰極側に移動する。
①②⑤は正しい記述。
水酸化鉄(III)のコロイド溶液(正に帯電)を凝析させる際、下記の電解質水溶液のうち、最も少量で凝析を起こすものを選び、その理由を説明せよ。ただし、各電解質は等モル濃度の水溶液とする。
③ Na3PO4
水酸化鉄(III)コロイドは正に帯電しているため、これを凝析させるには負のイオン(陰イオン)が有効です。
凝析の効果は陰イオンの価数が大きいほど強くなります(シュルツェ・ハーディの規則)。
④⑤は陽イオンが多価ですが、正に帯電したコロイドを凝析させるのは陰イオンが主役です。よって③が最も少量で凝析が起こります。
次の操作(ア)〜(ウ)の実験に関して、下の各問いに答えよ。
塩化鉄(III) FeCl3 の水溶液を沸騰水中に加えると、赤褐色の水酸化鉄(III) Fe(OH)3 のコロイド溶液が生じた。このコロイド溶液を操作した。
(ア)このコロイド溶液をセロハン膜の袋に入れ、流水中に浸した。
(イ)(ア)で精製したコロイド溶液に横から強い光をあてた。
(ウ)(イ)の後、少量の Na2SO4 水溶液を加えた。さらに別の試験管に(イ)のコロイド溶液を用意してゼラチン水溶液を加えた後、Na2SO4 水溶液を少量加えた。
(1)操作(ア)の名称と目的を答えよ。
(2)操作(イ)で観察される現象の名称と理由を答えよ。
(3)操作(ウ)で、ゼラチンを加えた場合と加えない場合で沈殿の生じ方はどのように異なるか。理由とともに答えよ。
(1)透析。セロハン膜(半透膜)を通じて、コロイド溶液中に混在するH+・Cl−などの小さなイオンを除き、コロイド溶液を精製する。
(2)チンダル現象。コロイド粒子(水酸化鉄(III))が光を散乱させるため、横から光をあてると光の通路が輝いて見える。
(3)ゼラチンを加えない場合:Na2SO4 のSO42−が正に帯電した水酸化鉄(III)コロイドの電荷を中和し、凝析が起こって沈殿が生じる。
ゼラチンを加えた場合:ゼラチン(親水コロイド)が保護コロイドとしてはたらき、水酸化鉄(III)コロイド粒子を取り囲む。そのため少量のNa2SO4では凝析しにくくなり、沈殿が生じにくい(または生じない)。
(3)のポイントは保護コロイドの機能です。親水コロイド(ゼラチン)が疎水コロイド(水酸化鉄(III))を包み込むことで、外部からの電解質の攻撃(電荷の中和)を防ぎます。墨汁中のにかわが炭素コロイドを安定化させているのも同じ原理です。