第16章 典型金属元素

アルミニウムとその化合物

アルミニウムAlは地殻中で最も多い金属元素です。軽くて電気を通し、酸にもアルカリにも溶ける両性金属という三重の特徴をもちます。
「なぜアルカリに溶けるのか」「なぜ濃硝酸には溶けないのか」まで、電子の動きから理解できます。
製錬(ホール・エルー法)の原理も入試頻出です。

1アルミニウムの性質

単体の基本性質

アルミニウム(融点660℃)は密度が2.70 g/cm³と比較的小さく、銀白色の金属です。延性・展性に富み、電気伝導性がよい。これらの性質から窓枠などの建築材料、アルミ缶、一円硬貨、送電線などに広く利用されています。

酸化皮膜と不動態

空気中では表面に薄い酸化アルミニウムAl₂O₃の被膜(酸化皮膜)が生じ、内部への酸化が進行しにくくなります。

4Al + 3O₂ → 2Al₂O₃

人工的にこの酸化皮膜を厚くしたものをアルマイトといい、耐食性をさらに高めた加工品として利用されます。

また、濃硝酸とは反応しない不動態を形成する)。濃硝酸中では表面に酸化皮膜が形成されて内部が保護されるため、反応が進行しません。

落とし穴:不動態を形成する金属

濃硝酸・濃硫酸で不動態を形成する金属はFe(鉄)・Al(アルミニウム)・Ni(ニッケル)が代表的です(入試頻出)。「アルミニウムは酸に溶ける両性金属」ですが、濃硝酸には溶けないという例外を押さえておきましょう。

2両性金属としてのAl

酸とも塩基とも反応する

アルミニウムは塩酸とも水酸化ナトリウム水溶液とも反応して水素H₂を発生しながら溶けます。酸とも強塩基とも反応する性質を両性といい、この性質を示す金属を両性金属といいます(Al・Sn・Pb・Znが代表例)。

2Al + 6HCl → 2AlCl₃ + 3H₂↑ (塩酸との反応)

2Al + 2NaOH + 6H₂O → 2Na[Al(OH)₄] + 3H₂↑ (NaOH水溶液との反応)

AlがNaOH水溶液(アルカリ)に溶けるのはなぜか
Alは表面の酸化皮膜(Al₂O₃)ごと、NaOHと反応する
Al₂O₃ + 2NaOH + 3H₂O → 2Na[Al(OH)₄](両性酸化物の性質)
皮膜が溶けた後、Al金属自体もOH⁻と反応してAl³⁺→錯イオン化
Al³⁺は電荷が+3と大きく、OH⁻と強く配位結合してテトラヒドロキシドアルミン酸イオン[Al(OH)₄]⁻を形成
錯イオン化することでAlが安定に溶液中に存在できる → 溶解が進む
本質:「両性」は電荷密度の高さから来る

Al³⁺は電荷が+3で非常に電荷密度が高い。そのため酸中ではAl³⁺として(酸化剤に電子を渡す)、塩基中では[Al(OH)₄]⁻錯イオンとして(OH⁻と配位結合する)、どちらの環境でも安定に存在できます。これが「両性」の化学的本質です。

3Al₂O₃とAl(OH)₃の両性

酸化アルミニウムAl₂O₃(アルミナ・コランダム)

アルミナともよばれ、きわめて硬く(モース硬度9)、純粋なものは無色透明。融点が高く(2054℃)、水には溶けにくい。微量の不純物を含む天然のAl₂O₃はルビー(Cr³⁺含有、赤色)やサファイア(Fe・Ti含有、青色)として知られます。

Al₂O₃は酸とも強塩基とも反応する両性酸化物です。

Al₂O₃ + 6HCl → 2AlCl₃ + 3H₂O (酸との反応)

Al₂O₃ + 2NaOH + 3H₂O → 2Na[Al(OH)₄] (塩基との反応)

水酸化アルミニウムAl(OH)₃(両性水酸化物)

Al³⁺を含む水溶液にアンモニア水や少量のNaOH水溶液を加えると、白色ゲル状の沈殿として析出します。

Al³⁺ + 3OH⁻ → Al(OH)₃↓(白色ゲル状)

Al(OH)₃は酸とも強塩基とも反応する両性水酸化物です。

Al(OH)₃ + 3HCl → AlCl₃ + 3H₂O (酸との反応)

Al(OH)₃ + NaOH → Na[Al(OH)₄] (塩基との反応)

落とし穴:NaOHを「少量」と「過剰」で結果が違う

Al³⁺水溶液にNaOH水溶液を加えるとき、少量ではAl(OH)₃の白色沈殿が生じますが、過剰に加えると沈殿が溶けて[Al(OH)₄]⁻の無色水溶液になります。NH₃水は過剰に加えてもAl(OH)₃は溶けません(NH₃は弱塩基で反応が不十分)。

4アルミニウムの製錬(ホール・エルー法)

なぜ水溶液の電気分解では得られないか

Alはイオン化傾向が非常に大きく、Al³⁺を水溶液中で電気分解しようとしても、AlよりもH₂Oのほうが還元されやすいため、電極にAlが析出せず代わりにH₂が発生してしまいます。

溶融塩電解(ホール・エルー法)

アルミニウム単体は酸化アルミニウムAl₂O₃を溶融させて電気分解する(溶融塩電解)ことで製造します。これをホール・エルー法といいます。

Al₂O₃の融点は2054℃と非常に高いため、氷晶石(Na₃AlF₆)を溶媒として加えて融点を約1000℃に下げ、溶融した液を電気分解します。

陰極:Al³⁺ + 3e⁻ → Al(還元)

陽極:2O²⁻ → O₂ + 4e⁻(酸化)※陽極は炭素電極で、生成したO₂と反応してCO₂となる

アルミニウムの原料はボーキサイト(主成分Al₂O₃·nH₂O)です。ボーキサイトを精製してアルミナ(純粋なAl₂O₃)とし、溶融塩電解にかけます。

発展:テルミット反応発展

アルミニウムの粉末と酸化鉄(Ⅲ)Fe₂O₃の混合物(テルミット)に点火すると激しく反応し、多量の熱と溶融した鉄が得られます。

2Al + Fe₂O₃ → 2Fe + Al₂O₃

Alは還元剤としてはたらき、Fe₂O₃中のFeを還元します。この反応はレールの溶接などに利用されます。

5この章を俯瞰する

アルミニウムの知識は、理論化学・無機化学・工業化学にまたがって多くの分野とつながります。

  • 酸化還元とイオン化傾向 → 12-1「電池」:Alのイオン化傾向が大きいことが、溶融塩電解が必要な理由に直結する。テルミット反応も酸化還元の応用。
  • 錯イオン → 17-3「錯イオン」:[Al(OH)₄]⁻はOH⁻が配位した錯イオン。錯イオンの生成がAlの両性に深く関わる。
  • 酸化物の分類 → 4-3「酸・塩基の定義」:塩基性酸化物(NaO等)・酸性酸化物(SO₃等)・両性酸化物(Al₂O₃等)の分類整理。
  • 電気分解とファラデーの法則 → 12-4「ファラデーの法則」:溶融塩電解でのAl析出量はファラデーの法則(Al³⁺なので3F/mol)で計算する。

6まとめ

  • Al単体:軽い(密度2.70 g/cm³)、電気伝導性大、酸化皮膜(Al₂O₃)で保護される
  • 濃硝酸とは不動態を形成 → 反応しない(Fe・Al・Niが代表)
  • 両性金属:酸(HCl)にも強塩基(NaOH)にも溶けてH₂を発生
  • Al₂O₃:両性酸化物、酸とも強塩基とも反応。天然ではルビー・サファイア
  • Al(OH)₃:両性水酸化物、白色ゲル状沈殿。NaOH過剰で溶解(NH₃過剰では溶けない)
  • 製錬:ホール・エルー法(Al₂O₃の溶融塩電解)。原料はボーキサイト、氷晶石で融点を下げる

7確認テスト

Q1. アルミニウムが塩酸と反応するときと、水酸化ナトリウム水溶液と反応するときの化学反応式をそれぞれ示せ。

▶ クリックして解答を表示塩酸:2Al + 6HCl → 2AlCl₃ + 3H₂↑ NaOH水溶液:2Al + 2NaOH + 6H₂O → 2Na[Al(OH)₄] + 3H₂↑

Q2. Al(OH)₃の白色沈殿にNaOH水溶液を過剰に加えたときの変化を、反応式と観察現象で述べよ。

▶ クリックして解答を表示Al(OH)₃ + NaOH → Na[Al(OH)₄]。白色沈殿が溶けて無色透明の水溶液になる。

Q3. アルミニウムの製錬に溶融塩電解が必要な理由を述べよ。

▶ クリックして解答を表示Alはイオン化傾向が非常に大きく、水溶液を電気分解するとH₂Oが先に還元されてH₂が発生し、Alが得られないから。Al₂O₃を融解して電気分解する(溶融塩電解)必要がある。

Q4. アルマイトとは何か。また、なぜアルミニウム製品に使われるのかを説明せよ。

▶ クリックして解答を表示アルミニウムの表面に人工的に厚い酸化アルミニウム(Al₂O₃)の被膜を形成させたもの。通常より厚い酸化皮膜が内部のアルミニウムを保護し、耐食性(さびにくさ)を高めるため。

8入試問題演習

基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。

A 基礎レベル

16-3-1 A 基礎 選択

アルミニウムに関する記述として正しいものを、次の①〜⑤からすべて選べ。

  • ① アルミニウムは塩化アルミニウム水溶液を電気分解することで単体が得られる。
  • ② アルミニウムは塩酸にも水酸化ナトリウム水溶液にも反応して水素を発生する。
  • ③ アルミニウムは濃硝酸とは不動態を形成し、反応しない。
  • ④ 酸化アルミニウムAl₂O₃は酸性酸化物である。
  • ⑤ 水酸化アルミニウムにNaOH水溶液を過剰に加えると、沈殿が溶ける。
▶ クリックして解答・解説を表示
解答

②③⑤

解説

①が誤り。Alはイオン化傾向が大きく水溶液の電気分解では得られません。酸化アルミニウムの溶融塩電解(ホール・エルー法)が正しい。

④が誤り。Al₂O₃は酸とも強塩基とも反応する両性酸化物です。酸性酸化物ではありません。

B 標準レベル

16-3-2 B 標準 論述・計算

ホール・エルー法でアルミニウムを製造する。酸化アルミニウムAl₂O₃を溶融して電気分解したとき、以下の問いに答えよ。原子量:Al=27、O=16、F(ファラデー定数)=9.65×10⁴ C/mol。

(1) 陰極での反応をイオン反応式で示せ。

(2) 2.0 Aの電流を4時間通じたとき、陰極に析出するAlの質量(g)を求めよ。

(3) ホール・エルー法で氷晶石(Na₃AlF₆)を混合する理由を述べよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) Al³⁺ + 3e⁻ → Al

(2) 0.90 g

(3) Al₂O₃の融点(約2054℃)は非常に高く、そのままでは融解させるのにエネルギーが大きすぎる。氷晶石を溶媒として加えることで融点を約1000℃程度に下げ、効率よく溶融塩電解を行えるようにするため。

解説

(2) 電気量 Q = 2.0 A × 4 × 3600 s = 28800 C。Al³⁺なのでAl 1 molの析出に3F(3×9.65×10⁴ C)必要。析出するAlのmol = 28800 ÷ (3×9.65×10⁴) ≒ 0.0994/3 ≒ 0.0333 mol。Alの質量 = 0.0333 mol × 27 g/mol ≒ 0.90 g。

C 発展レベル

16-3-3 C 発展 論述

AlCl₃水溶液にNaOH水溶液を少量ずつ加えていく実験を行った。以下の問いに答えよ。

(1) NaOHを少量加えたときに生じる沈殿の化学式と色を答えよ。また、その反応をイオン反応式で示せ。

(2) NaOHをさらに過剰に加えると沈殿はどうなるか。その反応をイオン反応式で示せ。

(3) 同じAlCl₃水溶液に対して、NaOH水溶液の代わりにNH₃水を過剰に加えた場合、沈殿はどうなるか。その理由も述べよ。

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解答

(1) Al(OH)₃、白色。 Al³⁺ + 3OH⁻ → Al(OH)₃↓

(2) 沈殿が溶けて無色透明になる。 Al(OH)₃ + OH⁻ → [Al(OH)₄]⁻

(3) 沈殿Al(OH)₃はそのまま残り、溶けない。NH₃は弱塩基であり、OH⁻の濃度がNaOHほど高くならないため、Al(OH)₃の両性反応(過剰OH⁻との反応)が進まないから。

解説

(3) は論述頻出テーマ。「NaOHは強塩基(完全電離)でOH⁻濃度が高い→Al(OH)₃が溶ける」「NH₃は弱塩基(部分電離)でOH⁻濃度が低い→Al(OH)₃は溶けない」という対比を明確に書くと得点できます。