スズSnと鉛Pbはいずれも14族元素で、AlやZnと同じく両性金属(酸にもアルカリにも溶ける)です。
鉛は希硫酸に溶けにくいという重要な例外があり、鉛蓄電池の原理と直結します。
有毒性と用途を合わせて、化学的理由から理解しましょう。
スズ(融点232℃)は加工しやすく、やわらかい金属です。化合物中では酸化数+2または+4をとりますが、スズは+4が安定(鉛は+2が安定という逆の傾向をもつ)。
ブリキは鉄にスズをめっきしたものです。スズは空気・水と反応しにくく、缶詰の内壁など食品容器に広く使われます。ただし、スズのめっきが剥がれると内部の鉄が露出し、鉄がスズよりイオン化傾向が大きいため鉄が腐食しやすくなります(これに対して「トタン」は亜鉛めっき鋼で、亜鉛が犠牲防食として働く)。
ブリキ(Sn めっき):めっきが剥がれると鉄が腐食しやすくなる(Feのイオン化傾向がSnより大きいため)。トタン(Zn めっき):めっきが剥がれても亜鉛が先に溶けて鉄を保護(犠牲防食)。二者の逆の挙動は入試の定番比較問題です。
スズは両性金属で、塩酸にも水酸化ナトリウム水溶液にも反応して水素を発生します。
Sn + 2HCl → SnCl₂ + H₂↑ (塩酸との反応)
Sn + 2NaOH + 2H₂O → Na₂[Sn(OH)₄] + H₂↑ (NaOH水溶液との反応)
塩化スズ(Ⅱ)二水和物SnCl₂·2H₂Oは無色の結晶で水によく溶けます。Sn²⁺はSn⁴⁺に酸化されやすく、還元作用を示します。
Sn²⁺ → Sn⁴⁺ + 2e⁻
この還元性は、有機化合物の合成や染色の媒染剤として利用されます。
鉛(融点328℃)はやわらかく、密度が非常に大きい金属(11.35 g/cm³)。化合物中では+2(より安定)または+4の酸化数をとります。放射線を吸収する性質から放射線遮蔽材として利用されます。
鉛は硝酸には反応して溶けます(酸化溶解)。しかし、塩酸や希硫酸には溶けにくいという特徴があります。
同様に、塩酸でも塩化鉛(Ⅱ)PbCl₂(白色・冷水には難溶)が表面に生じて反応が止まります。
鉛蓄電池は希硫酸を電解質として使います。放電すると両極の表面に硫酸鉛PbSO₄が形成され、充電するとPbSO₄が分解してもとに戻ります。鉛と希硫酸の「溶けにくい」という性質が、鉛蓄電池の耐久性を支えています。
負極:Pb + SO₄²⁻ → PbSO₄ + 2e⁻(酸化)
正極:PbO₂ + 4H⁺ + SO₄²⁻ + 2e⁻ → PbSO₄ + 2H₂O(還元)
全体:Pb + 2H₂SO₄ + PbO₂ → 2PbSO₄ + 2H₂O
Pb²⁺は多種の陰イオンと反応してさまざまな沈殿を形成します。
| 沈殿 | 色 | 特記事項 |
|---|---|---|
| Pb(OH)₂ | 白色 | 両性水酸化物(NaOH過剰で溶ける) |
| PbCl₂ | 白色 | 冷水に難溶、熱水に溶ける |
| PbSO₄ | 白色 | 水に難溶(鉛蓄電池で生成) |
| PbS | 黒色 | 水に難溶 |
| PbCrO₄ | 黄色 | 水に難溶(クロム酸鉛) |
PbSO₄が水に難溶であるという一つの事実が、①鉛が希硫酸に溶けない理由(表面被膜)と②鉛蓄電池の反応生成物(放電でPbSO₄が蓄積)、この両方を説明します。化学の性質は用途に直結していることの典型例です。
鉛およびその化合物は有毒です。体内に蓄積すると神経障害・貧血などを引き起こします(鉛中毒)。
かつては塗料(鉛白PbCO₃·Pb(OH)₂)、ガソリンの添加剤(四エチル鉛Pb(C₂H₅)₄)、電子部品の接合(鉛はんだ)などに広く使われてきました。現在はEU規制(RoHS指令)などにより、電子機器への鉛使用は厳しく制限されています。
スズ・鉛の知識は電気化学・溶解度積・両性反応など複数の分野と深くつながります。
Q1. 鉛が希硫酸に溶けにくい理由を述べよ。
Q2. ブリキのめっきが剥がれたとき、内部の鉄が腐食しやすい理由をイオン化傾向の観点から述べよ。
Q3. Pb²⁺を含む水溶液にK₂CrO₄水溶液を加えたときの変化を、化学反応式と観察現象で述べよ。
Q4. 塩化スズ(Ⅱ)SnCl₂が還元剤としてはたらく理由を、酸化数の変化とともに説明せよ。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
スズと鉛に関する記述として正しいものを、次の①〜⑤からすべて選べ。
①③⑤
②が誤り。ブリキは鉄にスズをめっきしたもの。鉄に亜鉛をめっきしたものはトタンです。トタンはめっきが剥がれても亜鉛が犠牲防食として鉄を保護しますが、ブリキはめっきが剥がれると鉄が腐食しやすくなります。
④が誤り。SnCl₂中のSn²⁺はSn⁴⁺に酸化されやすく、電子を放出するため還元剤としてはたらきます。
鉛蓄電池について、次の各問に答えよ。原子量:Pb=207、S=32、O=16、H=1。
(1) 鉛蓄電池の放電時の全体の反応を化学反応式で示せ。
(2) 鉛蓄電池を放電したとき、負極板の質量が増加した。その理由を説明せよ。
(3) ある鉛蓄電池を放電させたところ、負極板の質量が9.60 g増加した。このとき消費された硫酸H₂SO₄の物質量(mol)を求めよ。
(1) Pb + 2H₂SO₄ + PbO₂ → 2PbSO₄ + 2H₂O
(2) 負極のPb(原子量207)がPbSO₄(式量303)に変化するため、SO₄²⁻分だけ質量が増加するから。
(3) 0.100 mol
(3) 負極の反応:Pb → PbSO₄ + 2e⁻。負極でPb 1 molがPbSO₄ 1 molになるとき、質量の増加はSO₄²⁻の分 = 96 g/mol。増加量9.60 g ÷ 96 g/mol = 0.100 mol のPbが反応。全体の反応式より、Pb 1 molに対してH₂SO₄ 2 mol消費。よってH₂SO₄ = 0.100 × 2 = 0.200 mol……(注:負極だけで消費されるH₂SO₄を問う場合は0.100 mol)。負極だけの反応 Pb + HSO₄⁻ → PbSO₄ + H⁺ + 2e⁻ からH₂SO₄は0.100 mol。
鉄(Fe)の表面処理として「ブリキ(Snめっき)」と「トタン(Znめっき)」がある。以下の問いに答えよ。イオン化傾向:Zn > Fe > Sn。
(1) ブリキのめっきが剥がれた部分では、FeとSnが接触した局部電池が形成される。このとき負極となるのはどちらの金属か。また、腐食(溶解)するのはどちらか。
(2) トタンのめっきが剥がれた部分でZnとFeが接触したとき、腐食するのはどちらの金属か。その理由を述べよ。
(3) 食品缶詰の内面にブリキが使われる理由として、スズの性質を2点挙げよ。
(1) 負極:Fe。腐食するのは:Fe。
(2) 腐食するのはZn。Znのイオン化傾向がFeより大きいため、ZnとFeの局部電池ではZnが負極(酸化側)となり、Znが優先的に溶解する。その結果、Feは正極(還元側)となって腐食から保護される(犠牲防食)。
(3) ①スズは毒性が低く食品に接触しても安全である。②スズは酸や水に対して安定(反応しにくく)、食品の保護・缶の耐食性を高める。
(1) イオン化傾向 Fe > Sn なので、FeがSnより電子を放出しやすい → Feが負極(溶解・腐食)。
(2) 「犠牲防食」という用語とともに、「イオン化傾向が大きい方が溶ける=腐食する」という原理を明示すると得点できます。