第16章 典型金属元素

スズ・鉛とその化合物

スズSnと鉛Pbはいずれも14族元素で、AlやZnと同じく両性金属(酸にもアルカリにも溶ける)です。
鉛は希硫酸に溶けにくいという重要な例外があり、鉛蓄電池の原理と直結します。
有毒性と用途を合わせて、化学的理由から理解しましょう。

1スズSnとその化合物

スズ単体の性質

スズ(融点232℃)は加工しやすく、やわらかい金属です。化合物中では酸化数+2または+4をとりますが、スズは+4が安定(鉛は+2が安定という逆の傾向をもつ)。

ブリキ(スズめっき鋼)

ブリキ鉄にスズをめっきしたものです。スズは空気・水と反応しにくく、缶詰の内壁など食品容器に広く使われます。ただし、スズのめっきが剥がれると内部の鉄が露出し、鉄がスズよりイオン化傾向が大きいため鉄が腐食しやすくなります(これに対して「トタン」は亜鉛めっき鋼で、亜鉛が犠牲防食として働く)。

落とし穴:ブリキとトタンの違い

ブリキ(Sn めっき):めっきが剥がれると鉄が腐食しやすくなる(Feのイオン化傾向がSnより大きいため)。トタン(Zn めっき):めっきが剥がれても亜鉛が先に溶けて鉄を保護(犠牲防食)。二者の逆の挙動は入試の定番比較問題です。

スズの両性

スズは両性金属で、塩酸にも水酸化ナトリウム水溶液にも反応して水素を発生します。

Sn + 2HCl → SnCl₂ + H₂↑ (塩酸との反応)

Sn + 2NaOH + 2H₂O → Na₂[Sn(OH)₄] + H₂↑ (NaOH水溶液との反応)

塩化スズ(Ⅱ)SnCl₂の還元性

塩化スズ(Ⅱ)二水和物SnCl₂·2H₂Oは無色の結晶で水によく溶けます。Sn²⁺はSn⁴⁺に酸化されやすく、還元作用を示します。

Sn²⁺ → Sn⁴⁺ + 2e⁻

この還元性は、有機化合物の合成や染色の媒染剤として利用されます。

スズの合金

  • 青銅(ブロンズ):Cu+Sn の合金。硬度が高く、鋳造性に優れる
  • 無鉛はんだ:Sn+Ag+Cu など。電子基板の接合に使用(鉛フリー化の進展)

2鉛Pbとその化合物

鉛単体の性質

鉛(融点328℃)はやわらかく、密度が非常に大きい金属(11.35 g/cm³)。化合物中では+2(より安定)または+4の酸化数をとります。放射線を吸収する性質から放射線遮蔽材として利用されます。

鉛の溶解挙動:希硫酸には溶けにくい

鉛は硝酸には反応して溶けます(酸化溶解)。しかし、塩酸や希硫酸には溶けにくいという特徴があります。

鉛が希硫酸に溶けにくいのはなぜか
Pbが希硫酸と接触すると、まず表面でPbが溶けてPb²⁺が生成
Pb²⁺ + SO₄²⁻ → PbSO₄↓(白色・水に難溶)の沈殿が表面に生じる
PbSO₄の被膜が鉛の表面を覆い、内部のPbと希硫酸の接触を遮断する
反応がそれ以上進まなくなる → 溶けにくい

同様に、塩酸でも塩化鉛(Ⅱ)PbCl₂(白色・冷水には難溶)が表面に生じて反応が止まります。

鉛蓄電池との関係

鉛蓄電池は希硫酸を電解質として使います。放電すると両極の表面に硫酸鉛PbSO₄が形成され、充電するとPbSO₄が分解してもとに戻ります。鉛と希硫酸の「溶けにくい」という性質が、鉛蓄電池の耐久性を支えています。

負極:Pb + SO₄²⁻ → PbSO₄ + 2e⁻(酸化)

正極:PbO₂ + 4H⁺ + SO₄²⁻ + 2e⁻ → PbSO₄ + 2H₂O(還元)

全体:Pb + 2H₂SO₄ + PbO₂ → 2PbSO₄ + 2H₂O

鉛イオンPb²⁺の沈殿反応

Pb²⁺は多種の陰イオンと反応してさまざまな沈殿を形成します。

沈殿特記事項
Pb(OH)₂白色両性水酸化物(NaOH過剰で溶ける)
PbCl₂白色冷水に難溶、熱水に溶ける
PbSO₄白色水に難溶(鉛蓄電池で生成)
PbS黒色水に難溶
PbCrO₄黄色水に難溶(クロム酸鉛)
本質:PbSO₄の難溶性が「鉛は希硫酸に溶けない」と「鉛蓄電池」を両方説明する

PbSO₄が水に難溶であるという一つの事実が、①鉛が希硫酸に溶けない理由(表面被膜)と②鉛蓄電池の反応生成物(放電でPbSO₄が蓄積)、この両方を説明します。化学の性質は用途に直結していることの典型例です。

3鉛化合物の毒性と環境

鉛およびその化合物は有毒です。体内に蓄積すると神経障害・貧血などを引き起こします(鉛中毒)。

鉛フリー化の動き

かつては塗料(鉛白PbCO₃·Pb(OH)₂)、ガソリンの添加剤(四エチル鉛Pb(C₂H₅)₄)、電子部品の接合(鉛はんだ)などに広く使われてきました。現在はEU規制(RoHS指令)などにより、電子機器への鉛使用は厳しく制限されています。

  • はんだ:鉛フリーはんだ(Sn-Ag-Cu合金)に移行
  • 塗料:鉛系顔料は酸化チタンTiO₂などに代替
  • 鉛蓄電池:現在も自動車バッテリーとして使われているが、リサイクル率は高い

4この章を俯瞰する

スズ・鉛の知識は電気化学・溶解度積・両性反応など複数の分野と深くつながります。

  • 鉛蓄電池の電気化学 → 12-2「実用電池」:PbSO₄の難溶性が鉛蓄電池の耐久性の根拠。負極・正極の反応式とファラデーの法則の計算が頻出。
  • 溶解度積 → 14-6「溶解度積」:PbSO₄、PbCl₂、PbSなどの溶解度積の大小が沈殿生成の判断基準になる。
  • 両性金属の比較 → 16-3「アルミニウム」・17-x「亜鉛」:Al・Sn・Pb・Znがいずれも両性金属。反応式の形(H₂発生、錯イオン形成)が共通。
  • イオン化傾向とめっき → 12-1「電池」:ブリキとトタンの腐食挙動の違いは、Fe・Sn・Znのイオン化傾向の順序から説明できる。

5まとめ

  • Sn・Pbはいずれも14族元素、酸化数は+2または+4(Snは+4が、Pbは+2が安定)
  • ブリキ:Fe にSnめっき。めっき剥がれ → Feが腐食(Feの方がイオン化傾向大)
  • Sn²⁺は還元性あり:Sn²⁺ → Sn⁴⁺ + 2e⁻
  • Sn・Pbは両性金属:酸にもNaOH水溶液にも溶けてH₂発生
  • 鉛Pb:密度大・やわらかい・有毒。放射線遮蔽材、鉛蓄電池
  • 鉛は希硫酸に溶けにくい:表面にPbSO₄(難溶白色)が生じて被膜を形成するため
  • Pb²⁺の沈殿:PbCl₂(白・熱水に溶ける)、PbSO₄(白)、PbS(黒)、PbCrO₄(黄)

6確認テスト

Q1. 鉛が希硫酸に溶けにくい理由を述べよ。

▶ クリックして解答を表示鉛と希硫酸が接触すると、表面に水に難溶の硫酸鉛(Ⅱ)PbSO₄(白色)が生じ、この被膜が内部の鉛と希硫酸の接触を遮断するため、それ以上反応が進まないから。

Q2. ブリキのめっきが剥がれたとき、内部の鉄が腐食しやすい理由をイオン化傾向の観点から述べよ。

▶ クリックして解答を表示Feのイオン化傾向はSnより大きいため、めっきが剥がれてFeとSnが電気化学的セルを形成すると、Feが優先的に酸化(腐食)される(Feが負極、Snが正極となる局部電池が形成されるため)。

Q3. Pb²⁺を含む水溶液にK₂CrO₄水溶液を加えたときの変化を、化学反応式と観察現象で述べよ。

▶ クリックして解答を表示Pb²⁺ + CrO₄²⁻ → PbCrO₄↓。黄色の沈殿が生じる。

Q4. 塩化スズ(Ⅱ)SnCl₂が還元剤としてはたらく理由を、酸化数の変化とともに説明せよ。

▶ クリックして解答を表示SnCl₂中のSnは酸化数+2で、+4に酸化されやすい(Sn²⁺ → Sn⁴⁺ + 2e⁻)。電子を放出することで相手の物質を還元するため、SnCl₂は還元剤としてはたらく。

7入試問題演習

基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。

A 基礎レベル

16-4-1 A 基礎 選択

スズと鉛に関する記述として正しいものを、次の①〜⑤からすべて選べ。

  • ① スズと鉛はいずれも14族元素で、両性金属である。
  • ② ブリキは鉄に亜鉛をめっきしたものであり、めっきが剥がれても鉄は腐食しにくい。
  • ③ 鉛は希硫酸に溶けにくい。これは表面に難溶性のPbSO₄が生じるためである。
  • ④ 塩化スズ(Ⅱ)SnCl₂は酸化剤としてはたらく。
  • ⑤ 鉛は有毒であり、放射線を吸収する性質をもつ。
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解答

①③⑤

解説

②が誤り。ブリキは鉄にスズをめっきしたもの。鉄に亜鉛をめっきしたものはトタンです。トタンはめっきが剥がれても亜鉛が犠牲防食として鉄を保護しますが、ブリキはめっきが剥がれると鉄が腐食しやすくなります。

④が誤り。SnCl₂中のSn²⁺はSn⁴⁺に酸化されやすく、電子を放出するため還元剤としてはたらきます。

B 標準レベル

16-4-2 B 標準 論述・計算

鉛蓄電池について、次の各問に答えよ。原子量:Pb=207、S=32、O=16、H=1。

(1) 鉛蓄電池の放電時の全体の反応を化学反応式で示せ。

(2) 鉛蓄電池を放電したとき、負極板の質量が増加した。その理由を説明せよ。

(3) ある鉛蓄電池を放電させたところ、負極板の質量が9.60 g増加した。このとき消費された硫酸H₂SO₄の物質量(mol)を求めよ。

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解答

(1) Pb + 2H₂SO₄ + PbO₂ → 2PbSO₄ + 2H₂O

(2) 負極のPb(原子量207)がPbSO₄(式量303)に変化するため、SO₄²⁻分だけ質量が増加するから。

(3) 0.100 mol

解説

(3) 負極の反応:Pb → PbSO₄ + 2e⁻。負極でPb 1 molがPbSO₄ 1 molになるとき、質量の増加はSO₄²⁻の分 = 96 g/mol。増加量9.60 g ÷ 96 g/mol = 0.100 mol のPbが反応。全体の反応式より、Pb 1 molに対してH₂SO₄ 2 mol消費。よってH₂SO₄ = 0.100 × 2 = 0.200 mol……(注:負極だけで消費されるH₂SO₄を問う場合は0.100 mol)。負極だけの反応 Pb + HSO₄⁻ → PbSO₄ + H⁺ + 2e⁻ からH₂SO₄は0.100 mol。

C 発展レベル

16-4-3 C 発展 論述

鉄(Fe)の表面処理として「ブリキ(Snめっき)」と「トタン(Znめっき)」がある。以下の問いに答えよ。イオン化傾向:Zn > Fe > Sn。

(1) ブリキのめっきが剥がれた部分では、FeとSnが接触した局部電池が形成される。このとき負極となるのはどちらの金属か。また、腐食(溶解)するのはどちらか。

(2) トタンのめっきが剥がれた部分でZnとFeが接触したとき、腐食するのはどちらの金属か。その理由を述べよ。

(3) 食品缶詰の内面にブリキが使われる理由として、スズの性質を2点挙げよ。

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解答

(1) 負極:Fe。腐食するのは:Fe。

(2) 腐食するのはZn。Znのイオン化傾向がFeより大きいため、ZnとFeの局部電池ではZnが負極(酸化側)となり、Znが優先的に溶解する。その結果、Feは正極(還元側)となって腐食から保護される(犠牲防食)。

(3) ①スズは毒性が低く食品に接触しても安全である。②スズは酸や水に対して安定(反応しにくく)、食品の保護・缶の耐食性を高める。

解説

(1) イオン化傾向 Fe > Sn なので、FeがSnより電子を放出しやすい → Feが負極(溶解・腐食)。

(2) 「犠牲防食」という用語とともに、「イオン化傾向が大きい方が溶ける=腐食する」という原理を明示すると得点できます。