第17章 遷移元素

クロム・マンガンとその化合物

クロム(Cr)とマンガン(Mn)は、酸化数が複数あり、化合物の色が酸化数によって大きく変化する遷移元素です。
クロム酸イオン(黄色)⇄ニクロム酸イオン(赤橙色)の平衡と、過マンガン酸カリウムの赤紫色→無色の色変化は入試の超頻出テーマです。
「酸化数と色の対応」を軸に整理してください。

1クロム Cr の性質

単体の性質

クロム(Cr)は銀白色の金属で、非常に硬く、光沢があります。空気中に放置すると表面にち密な酸化被膜(Cr2O3)を生じ、内部を保護します。この性質(不動態)を利用して、水道の蛇口などにクロムめっきを施し、金属の腐食を防ぐことができます。

試薬クロム Cr の反応
塩酸(HCl)・希硫酸水素を発生して溶ける
濃硝酸不動態を形成して溶けない
希硝酸溶ける(条件による)
落とし穴:不動態を形成する金属を整理する

濃硝酸に不動態を形成して溶けない金属:Fe(鉄)・Cr(クロム)・Al(アルミニウム)・Ni(ニッケル)・Co(コバルト)。これらは表面に安定な酸化被膜が形成されるためです。クロムは特に耐食性が高く、合金(ステンレス鋼)にも利用されます。

クロムの合金

クロムは合金材料として広く使われます。

  • ステンレス鋼(Fe + Cr + Ni):さびにくい、流し台・医療器具
  • ニクロム(Ni + Cr):電気抵抗が大きい、電熱線・オーブントースター

2クロムの化合物

クロム酸イオンとニクロム酸イオンの平衡

クロムの酸化数 +6 の化合物には2種類の重要なイオンが存在し、水溶液の pH によって相互変換します。

CrO42−
クロム酸イオン
黄色
酸性にする(H+を加える)
塩基性にする(OHを加える)
Cr2O72−
ニクロム酸イオン
赤橙色

2CrO42− + 2H+ ⇄ Cr2O72− + H2O (酸性 → 赤橙色)

Cr2O72− + 2OH ⇄ 2CrO42− + H2O (塩基性 → 黄色)

酸性にすると黄色から赤橙色に変わるのはなぜか
H+ が加わると、CrO42− の酸素(O2−)が H+ と反応して H2O になりやすい
2つの CrO42− が脱水縮合 → Cr2O72− が形成される
クロムの電子構造の変化 → 吸収する光の波長が変わる → 色が黄色から赤橙色へ変化

クロム酸イオンの沈殿反応

クロム酸イオン CrO42− は、鉛イオン Pb2+、バリウムイオン Ba2+、銀イオン Ag+ と反応して有色の沈殿を生じます。

反応するイオン生成する沈殿
Pb2+PbCrO4(クロム酸鉛)黄色
Ba2+BaCrO4(クロム酸バリウム)黄色
Ag+Ag2CrO4(クロム酸銀)赤褐色

二クロム酸カリウム K2Cr2O7 の酸化作用

二クロム酸カリウム K2Cr2O7 は赤橙色の結晶で、酸化数 +6 のクロムを含みます。酸性水溶液中で強力な酸化剤として作用し、クロムは酸化数 +3 の Cr3+(緑色)に変化します。

Cr2O72− + 14H+ + 6e → 2Cr3+ + 7H2O

(赤橙色)           (緑色)

本質:クロムの酸化数と色の対応

Cr の化合物の色は酸化数と対応しています:+6 → 黄色(CrO42−)または赤橙色(Cr2O72−)、+3 → 緑色(Cr3+。酸化剤として作用すると Cr の酸化数が下がり(+6 → +3)、水溶液の色が赤橙色から緑色に変化します。

発展:K2Cr2O7 の強い毒性注意

酸化数 +6 のクロム化合物(六価クロム)は発がん性・毒性が非常に強く、環境中への排出は厳しく規制されています。一方、酸化数 +3 の Cr3+ は生体に必要な必須微量元素です。同じ元素でも酸化数によって毒性が大きく異なる典型例です。

3マンガン Mn の性質

単体の性質

マンガン(Mn)は銀白色の金属で、かたくてもろい性質をもちます。マンガン自体は鉄よりも脆いですが、鉄に少量のマンガンを加えたマンガン鋼(Fe + Mn + C)はしなやかでねばり強く、橋・船などの構造材料に使われます。

マンガンの酸化数

マンガンは多様な酸化数(+2、+4、+7 など)をとれることが特徴です。

酸化数代表的な化合物・イオン
+2Mn2+(マンガン(II)イオン)淡赤色(ほぼ無色)
+4MnO2(酸化マンガン(IV))黒色
+7MnO4(過マンガン酸イオン)赤紫色

酸化マンガン(IV) MnO2 の性質

酸化マンガン(IV) MnO2 は黒色の粉末で水に溶けにくい性質をもちます。主な用途は以下のとおりです。

  • マンガン乾電池の正極活物質:放電時に還元されて Mn2+ に変化
  • 触媒:H2O2 の分解反応(O2 発生)や Cl2 の製造に使用
  • 酸化剤:酸性水溶液中で Mn2+ に還元される(MnO2 + 4H+ + 2e → Mn2+ + 2H2O)

Cl2 の製造(実験室):MnO2 + 4HCl(濃) → MnCl2 + 2H2O + Cl2

H2O2 の分解(触媒):2H2O2 → 2H2O + O2↑ (MnO2 は変化しない)

4過マンガン酸カリウム KMnO4

基本的な性質

過マンガン酸カリウム KMnO4黒紫色の結晶で、水に溶けると赤紫色の水溶液になります。Mn の酸化数は +7 と非常に高く、強力な酸化剤として作用します。

KMnO4
水溶液
赤紫色
酸性条件で還元
Mn2+
水溶液
淡赤色(ほぼ無色)
KMnO4
水溶液
赤紫色
中性・塩基性条件で還元
MnO2
沈殿
黒色

酸性条件での反応(重要)

酸性水溶液中(硫酸酸性)では、MnO4Mn2+(淡赤色) に変化し、水溶液の赤紫色が脱色します。この色の消失は「酸化還元反応の完結」を示す目安になります。

MnO4 + 8H+ + 5e → Mn2+ + 4H2O (酸性条件)

(赤紫色)         (淡赤色・ほぼ無色)

中性・塩基性条件での反応

中性または塩基性の水溶液中では、MnO4MnO2(黒色沈殿) に変化します。

MnO4 + 2H2O + 3e → MnO2↓ + 4OH (中性・塩基性条件)

KMnO4 の具体的な酸化反応(入試頻出)

硫酸酸性の過マンガン酸カリウム水溶液は多くの物質を酸化します。

還元される物質酸化の結果色の変化
シュウ酸 H2C2O4CO2 と H2O に分解赤紫色 → 脱色
アルケン(C=C二重結合)切断されてカルボニル化合物生成赤紫色 → 脱色
アルデヒド(−CHO)カルボン酸(−COOH)に酸化赤紫色 → 脱色
Fe2+Fe3+ に酸化赤紫色 → 脱色
KMnO4 と不飽和結合の検出

アルケン・アルキンなどの不飽和結合は、硫酸酸性の KMnO4 水溶液を脱色(赤紫色 → 無色)します。一方、アルカンなどの飽和化合物は KMnO4 を還元できないため脱色しません。これが不飽和炭化水素の検出に利用されます。

本質:KMnO4 の色変化は「酸化数の変化」で理解する

KMnO4 の赤紫色は Mn の酸化数 +7 によるものです。酸化剤としてはたらくと Mn が還元され、酸性なら +2(淡赤色)、中性・塩基性なら +4(MnO2、黒色沈殿) になります。色の変化を見ることで、反応の進行を目視で確認できます。

5俯瞰:クロムとマンガンを比較する

元素単体の特徴重要な酸化数代表的な化合物・反応
Cr 銀白色・硬い
不動態(濃硝酸)
めっきに利用
+3(Cr3+:緑)
+6(CrO42−:黄、Cr2O72−:赤橙)
pH で黄⇄赤橙の変化
Cr2O72−:酸性下で強い酸化剤
Mn 銀白色・硬くてもろい
マンガン鋼に利用
+2(Mn2+:淡赤)
+4(MnO2:黒)
+7(MnO4:赤紫)
MnO2:触媒・乾電池
KMnO4:強い酸化剤、赤紫→脱色
  • 色の暗記法:Cr は「黄(CrO42−)→ 赤橙(Cr2O72−)→ 緑(Cr3+)」。Mn は「赤紫(MnO4)→ 黒(MnO2)→ 淡赤(Mn2+)」。
  • 酸化剤としての使いどころ:K2Cr2O7 と KMnO4 はどちらも強力な酸化剤だが、KMnO4 の方が酸化力が強い。両者とも酸性条件が必要。
  • MnO2 の二面性:触媒として使うとき(H2O2 分解)は Mn の酸化数が変化しない。酸化剤として使うとき(濃HCl との反応)は +4 → +2 に変化する。

6まとめ

  • 単体:銀白色、硬い、濃硝酸に不動態、めっきに利用
  • CrO42−(黄色)⇄ Cr2O72−(赤橙色):酸性で赤橙色、塩基性で黄色
  • K2Cr2O7:酸性水溶液中で強い酸化剤、Cr3+(緑色)に変化
  • CrO42− + Pb2+ → PbCrO4↓(黄色)、+ Ba2+ → BaCrO4↓(黄色)、+ Ag+ → Ag2CrO4↓(赤褐色)
  • 単体:銀白色、硬くてもろい、マンガン鋼(Fe+Mn+C)は強靭
  • MnO2(酸化マンガン(IV)):黒色、触媒・乾電池正極活物質
  • KMnO4:黒紫色結晶、水溶液は赤紫色、強力な酸化剤
  • 酸性条件:MnO4 → Mn2+(脱色)
  • 中性・塩基性条件:MnO4 → MnO2↓(黒色沈殿)

7確認テスト

Q1. クロム酸イオンの水溶液に希硫酸を加えると、水溶液の色はどのように変化するか。

クリックして答えを確認
黄色 → 赤橙色。CrO42−(黄)+ H+ → Cr2O72−(赤橙)+ H2O。逆にOHを加えると赤橙色→黄色に戻る。

Q2. 酸化マンガン(IV)が触媒と酸化剤の両方として使われる反応をそれぞれ1つ答えよ。

クリックして答えを確認
触媒:過酸化水素 H2O2 の分解(酸素 O2 の発生)。酸化剤:濃塩酸との反応(塩素 Cl2 の発生)。

Q3. 硫酸酸性の過マンガン酸カリウム水溶液にシュウ酸水溶液を加えたとき、水溶液の色はどうなるか。また Mn の酸化数はどのように変化するか。

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赤紫色 → 脱色(淡赤色・ほぼ無色)。Mn の酸化数は +7 → +2 に変化する(MnO4 → Mn2+)。

Q4. 不動態を形成する金属を3つ答えよ。

クリックして答えを確認
Fe(鉄)・Cr(クロム)・Al(アルミニウム)(他に Ni・Co も不動態を形成する)。

8入試問題演習

問A A 基本 クロム・マンガンの性質

次の記述のうち、正しいものを1つ選べ。

  • ① クロム酸イオンを含む水溶液に酸を加えると黄色から無色になる。
  • ② 酸化マンガン(IV)は黄色の粉末である。
  • ③ 過マンガン酸カリウム水溶液は赤紫色を呈する。
  • ④ 二クロム酸イオンを含む水溶液は酸性条件で黄色を呈する。
  • ⑤ クロムは濃硝酸に溶けやすい。
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解答

解説

③が正しい。KMnO4 水溶液は Mn の酸化数 +7 に由来する赤紫色です。

①誤り:CrO42−(黄色)に酸を加えると Cr2O72−(赤橙色)になります(無色にはなりません)。②誤り:MnO2 は黒色の粉末です。④誤り:Cr2O72− は赤橙色(黄色は CrO42− の色)。⑤誤り:クロムは濃硝酸で不動態を形成して溶けません。

問B B 標準 KMnO4 の酸化反応・量的関係

硫酸酸性の過マンガン酸カリウム水溶液 20.0 mL(0.020 mol/L)に、シュウ酸水溶液を過剰に加えた。この反応における酸化還元反応の半反応式と、使われた過マンガン酸カリウムの物質量を求めよ。

(シュウ酸 H2C2O4 → 2CO2 + 2H+ + 2e

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解答

KMnO4 の物質量 = 0.020 mol/L × 0.020 L = 4.0 × 10−4 mol

解説

酸化剤の半反応式(MnO4):

MnO4 + 8H+ + 5e → Mn2+ + 4H2O …①

還元剤の半反応式(H2C2O4):

H2C2O4 → 2CO2 + 2H+ + 2e …②

電子数を合わせると:①×2 + ②×5(electrons が 10 個で一致)

KMnO4 の物質量 = 0.020 mol/L × 20.0×10−3 L = 4.0×10−4 mol

この反応では KMnO4 が完全に消費され(赤紫色が脱色される)、還元剤(シュウ酸)は過剰なので赤紫色が残らない状態になります。

問C C 発展 クロム酸平衡・論述

黄色のクロム酸カリウム K2CrO4 水溶液に希硫酸を少量加えると水溶液が赤橙色に変化した。以下の問に答えよ。

(1)この変化をイオン反応式で表せ。

(2)赤橙色の水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加えると、水溶液の色はどのように変化するか。その理由もあわせて説明せよ。

(3)この水溶液(酸性)に硝酸鉛(II)水溶液を加えると沈殿が生じた。沈殿の名称・色を答えよ。

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解答

(1)2CrO42− + 2H+ ⇄ Cr2O72− + H2O

(2)赤橙色 → 黄色に変化する。OH が加わることで平衡が左に移動し(ルシャトリエの原理)、Cr2O72− が CrO42− に変換されるため。

(3)クロム酸鉛(PbCrO4)、黄色の沈殿

解説

(1)CrO42−(黄)⇄ Cr2O72−(赤橙)の平衡は pH によって制御されます。

(2)OH を加えると H+ が中和されて平衡が左に移動し、CrO42− の割合が増えて黄色に変化します(ルシャトリエの原理の応用)。

(3)酸性条件でも CrO42− は微量存在しており、Pb2+ と反応して溶解度積を超えると PbCrO4(黄色)が沈殿します。Pb2+ + CrO42− → PbCrO4↓(黄色)

採点ポイント(2)
  • 「OH により平衡が移動する」旨の記述
  • 「CrO42− が増える(Cr2O72− が減る)」旨の記述
  • 「黄色に変化する」