クロム(Cr)とマンガン(Mn)は、酸化数が複数あり、化合物の色が酸化数によって大きく変化する遷移元素です。
クロム酸イオン(黄色)⇄ニクロム酸イオン(赤橙色)の平衡と、過マンガン酸カリウムの赤紫色→無色の色変化は入試の超頻出テーマです。
「酸化数と色の対応」を軸に整理してください。
クロム(Cr)は銀白色の金属で、非常に硬く、光沢があります。空気中に放置すると表面にち密な酸化被膜(Cr2O3)を生じ、内部を保護します。この性質(不動態)を利用して、水道の蛇口などにクロムめっきを施し、金属の腐食を防ぐことができます。
| 試薬 | クロム Cr の反応 |
|---|---|
| 塩酸(HCl)・希硫酸 | 水素を発生して溶ける |
| 濃硝酸 | 不動態を形成して溶けない |
| 希硝酸 | 溶ける(条件による) |
濃硝酸に不動態を形成して溶けない金属:Fe(鉄)・Cr(クロム)・Al(アルミニウム)・Ni(ニッケル)・Co(コバルト)。これらは表面に安定な酸化被膜が形成されるためです。クロムは特に耐食性が高く、合金(ステンレス鋼)にも利用されます。
クロムは合金材料として広く使われます。
クロムの酸化数 +6 の化合物には2種類の重要なイオンが存在し、水溶液の pH によって相互変換します。
2CrO42− + 2H+ ⇄ Cr2O72− + H2O (酸性 → 赤橙色)
Cr2O72− + 2OH− ⇄ 2CrO42− + H2O (塩基性 → 黄色)
クロム酸イオン CrO42− は、鉛イオン Pb2+、バリウムイオン Ba2+、銀イオン Ag+ と反応して有色の沈殿を生じます。
| 反応するイオン | 生成する沈殿 | 色 |
|---|---|---|
| Pb2+ | PbCrO4(クロム酸鉛) | 黄色 |
| Ba2+ | BaCrO4(クロム酸バリウム) | 黄色 |
| Ag+ | Ag2CrO4(クロム酸銀) | 赤褐色 |
二クロム酸カリウム K2Cr2O7 は赤橙色の結晶で、酸化数 +6 のクロムを含みます。酸性水溶液中で強力な酸化剤として作用し、クロムは酸化数 +3 の Cr3+(緑色)に変化します。
Cr2O72− + 14H+ + 6e− → 2Cr3+ + 7H2O
(赤橙色) (緑色)
Cr の化合物の色は酸化数と対応しています:+6 → 黄色(CrO42−)または赤橙色(Cr2O72−)、+3 → 緑色(Cr3+)。酸化剤として作用すると Cr の酸化数が下がり(+6 → +3)、水溶液の色が赤橙色から緑色に変化します。
酸化数 +6 のクロム化合物(六価クロム)は発がん性・毒性が非常に強く、環境中への排出は厳しく規制されています。一方、酸化数 +3 の Cr3+ は生体に必要な必須微量元素です。同じ元素でも酸化数によって毒性が大きく異なる典型例です。
マンガン(Mn)は銀白色の金属で、かたくてもろい性質をもちます。マンガン自体は鉄よりも脆いですが、鉄に少量のマンガンを加えたマンガン鋼(Fe + Mn + C)はしなやかでねばり強く、橋・船などの構造材料に使われます。
マンガンは多様な酸化数(+2、+4、+7 など)をとれることが特徴です。
| 酸化数 | 代表的な化合物・イオン | 色 |
|---|---|---|
| +2 | Mn2+(マンガン(II)イオン) | 淡赤色(ほぼ無色) |
| +4 | MnO2(酸化マンガン(IV)) | 黒色 |
| +7 | MnO4−(過マンガン酸イオン) | 赤紫色 |
酸化マンガン(IV) MnO2 は黒色の粉末で水に溶けにくい性質をもちます。主な用途は以下のとおりです。
Cl2 の製造(実験室):MnO2 + 4HCl(濃) → MnCl2 + 2H2O + Cl2↑
H2O2 の分解(触媒):2H2O2 → 2H2O + O2↑ (MnO2 は変化しない)
過マンガン酸カリウム KMnO4 は黒紫色の結晶で、水に溶けると赤紫色の水溶液になります。Mn の酸化数は +7 と非常に高く、強力な酸化剤として作用します。
酸性水溶液中(硫酸酸性)では、MnO4− が Mn2+(淡赤色) に変化し、水溶液の赤紫色が脱色します。この色の消失は「酸化還元反応の完結」を示す目安になります。
MnO4− + 8H+ + 5e− → Mn2+ + 4H2O (酸性条件)
(赤紫色) (淡赤色・ほぼ無色)
中性または塩基性の水溶液中では、MnO4− が MnO2(黒色沈殿) に変化します。
MnO4− + 2H2O + 3e− → MnO2↓ + 4OH− (中性・塩基性条件)
硫酸酸性の過マンガン酸カリウム水溶液は多くの物質を酸化します。
| 還元される物質 | 酸化の結果 | 色の変化 |
|---|---|---|
| シュウ酸 H2C2O4 | CO2 と H2O に分解 | 赤紫色 → 脱色 |
| アルケン(C=C二重結合) | 切断されてカルボニル化合物生成 | 赤紫色 → 脱色 |
| アルデヒド(−CHO) | カルボン酸(−COOH)に酸化 | 赤紫色 → 脱色 |
| Fe2+ | Fe3+ に酸化 | 赤紫色 → 脱色 |
アルケン・アルキンなどの不飽和結合は、硫酸酸性の KMnO4 水溶液を脱色(赤紫色 → 無色)します。一方、アルカンなどの飽和化合物は KMnO4 を還元できないため脱色しません。これが不飽和炭化水素の検出に利用されます。
KMnO4 の赤紫色は Mn の酸化数 +7 によるものです。酸化剤としてはたらくと Mn が還元され、酸性なら +2(淡赤色)、中性・塩基性なら +4(MnO2、黒色沈殿) になります。色の変化を見ることで、反応の進行を目視で確認できます。
| 元素 | 単体の特徴 | 重要な酸化数 | 代表的な化合物・反応 |
|---|---|---|---|
| Cr | 銀白色・硬い 不動態(濃硝酸) めっきに利用 |
+3(Cr3+:緑) +6(CrO42−:黄、Cr2O72−:赤橙) |
pH で黄⇄赤橙の変化 Cr2O72−:酸性下で強い酸化剤 |
| Mn | 銀白色・硬くてもろい マンガン鋼に利用 |
+2(Mn2+:淡赤) +4(MnO2:黒) +7(MnO4−:赤紫) |
MnO2:触媒・乾電池 KMnO4:強い酸化剤、赤紫→脱色 |
Q1. クロム酸イオンの水溶液に希硫酸を加えると、水溶液の色はどのように変化するか。
Q2. 酸化マンガン(IV)が触媒と酸化剤の両方として使われる反応をそれぞれ1つ答えよ。
Q3. 硫酸酸性の過マンガン酸カリウム水溶液にシュウ酸水溶液を加えたとき、水溶液の色はどうなるか。また Mn の酸化数はどのように変化するか。
Q4. 不動態を形成する金属を3つ答えよ。
次の記述のうち、正しいものを1つ選べ。
③
③が正しい。KMnO4 水溶液は Mn の酸化数 +7 に由来する赤紫色です。
①誤り:CrO42−(黄色)に酸を加えると Cr2O72−(赤橙色)になります(無色にはなりません)。②誤り:MnO2 は黒色の粉末です。④誤り:Cr2O72− は赤橙色(黄色は CrO42− の色)。⑤誤り:クロムは濃硝酸で不動態を形成して溶けません。
硫酸酸性の過マンガン酸カリウム水溶液 20.0 mL(0.020 mol/L)に、シュウ酸水溶液を過剰に加えた。この反応における酸化還元反応の半反応式と、使われた過マンガン酸カリウムの物質量を求めよ。
(シュウ酸 H2C2O4 → 2CO2 + 2H+ + 2e−)
KMnO4 の物質量 = 0.020 mol/L × 0.020 L = 4.0 × 10−4 mol
酸化剤の半反応式(MnO4−):
MnO4− + 8H+ + 5e− → Mn2+ + 4H2O …①
還元剤の半反応式(H2C2O4):
H2C2O4 → 2CO2 + 2H+ + 2e− …②
電子数を合わせると:①×2 + ②×5(electrons が 10 個で一致)
KMnO4 の物質量 = 0.020 mol/L × 20.0×10−3 L = 4.0×10−4 mol
この反応では KMnO4 が完全に消費され(赤紫色が脱色される)、還元剤(シュウ酸)は過剰なので赤紫色が残らない状態になります。
黄色のクロム酸カリウム K2CrO4 水溶液に希硫酸を少量加えると水溶液が赤橙色に変化した。以下の問に答えよ。
(1)この変化をイオン反応式で表せ。
(2)赤橙色の水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加えると、水溶液の色はどのように変化するか。その理由もあわせて説明せよ。
(3)この水溶液(酸性)に硝酸鉛(II)水溶液を加えると沈殿が生じた。沈殿の名称・色を答えよ。
(1)2CrO42− + 2H+ ⇄ Cr2O72− + H2O
(2)赤橙色 → 黄色に変化する。OH− が加わることで平衡が左に移動し(ルシャトリエの原理)、Cr2O72− が CrO42− に変換されるため。
(3)クロム酸鉛(PbCrO4)、黄色の沈殿
(1)CrO42−(黄)⇄ Cr2O72−(赤橙)の平衡は pH によって制御されます。
(2)OH− を加えると H+ が中和されて平衡が左に移動し、CrO42− の割合が増えて黄色に変化します(ルシャトリエの原理の応用)。
(3)酸性条件でも CrO42− は微量存在しており、Pb2+ と反応して溶解度積を超えると PbCrO4(黄色)が沈殿します。Pb2+ + CrO42− → PbCrO4↓(黄色)