同じ分子式でも、原子のつながり方や空間配置が異なると、まったく違う化合物になります。
これが「異性体」です。入試では「異性体の数を求めよ」という問題が頻出です。
構造異性体・シス-トランス異性体・鏡像異性体の3種類を整理して、数え方のコツを習得しましょう。
異性体とは、分子式が同じで、構造(原子のつながり方や空間配置)が異なる化合物どうしのことです。異性体は互いに異なる化合物であり、物理的・化学的性質も異なります。
例えば、C2H6O という分子式には2種類の化合物が存在します。
エタノール(CH3CH2OH):沸点 78℃、水に無限に混和、アルコール
ジメチルエーテル(CH3OCH3):沸点 −24℃、水にあまり溶けない、エーテル
同じ分子式なのに性質がまったく異なる。これが異性体の本質です。
| 異性体の種類 | 何が異なるか | 代表例 |
|---|---|---|
| 構造異性体 | 原子のつながり方(結合の仕方)が異なる | エタノール vs ジメチルエーテル |
| 立体異性体(シス-トランス) | 原子のつながりは同じ、二重結合まわりの空間配置が異なる | シス-2-ブテン vs トランス-2-ブテン |
| 立体異性体(鏡像異性体) | 原子のつながりは同じ、不斉炭素まわりの空間配置が異なる(鏡像関係) | L-乳酸 vs D-乳酸 |
構造異性体とは、分子式が同じで原子のつながり方(結合の順序)が異なる異性体です。
炭素原子の連なり方(直鎖か、枝分かれか)が異なるものです。
炭素骨格は同じで、官能基や二重結合の位置が異なるものです。
炭素骨格も似ているが、官能基の種類そのものが異なるものです。
立体異性体とは、原子のつながり方は同じだが、原子や原子団の空間的な配置が異なり、互いに重ね合わせることのできない異性体です。
C=C 二重結合のまわりでは回転が起きません。二重結合をもつ炭素に、それぞれ異なる2つの置換基がついているとき、シス-トランス異性体が生じます。
C=C の各炭素に「2種類の異なる置換基」がついていることが条件です。
例:CH2=CH2(エチレン)→ 各炭素に H が2個ついており、置換基が同じなので異性体は生じない。
例:CH3CH=CH2(プロペン)→ 右側の C に H, H がついており、2種類の異なる置換基がないので生じない。
4つの異なる原子または原子団が結合した炭素を不斉炭素原子(C*)といいます。不斉炭素をもつ分子は、鏡に映した像と重ね合わせることができない「手」のような関係になります。これを鏡像異性体(エナンチオマー)といいます。
乳酸の中央の炭素には −H、−OH、−CH3、−COOH の4種類の異なる基が結合しているため、不斉炭素原子(C*)である。L-乳酸と D-乳酸は互いに鏡像の関係にあり、融点・沸点などの物理的性質は同じだが、偏光の回転方向が異なる。
炭素原子に結合している4つの置換基をすべて書き出し、4つすべてが異なるかどうかを確認します。1つでも同じものがあれば不斉炭素ではありません。
入試で最も重要なのが異性体の「数え方」です。見落としや重複を避けるため、系統的に数える手順を身につけましょう。
合計 2種類(n-ブタン、2-メチルプロパン)
合計 3種類
C4H8 の異性体:1-ブテン・シス-2-ブテン・トランス-2-ブテン・2-メチルプロペン・シクロブタン・メチルシクロプロパン など多数
同じ構造を別の構造として重複して数えない。構造式を回転・裏返しして一致するものは同一化合物です。
例:CH3CH2CH2CH3 を逆から書いても CH3CH2CH2CH3 であり、n-ブタン1種類です。
Q1. C4H10 の構造異性体を示性式で2つすべて書け。
Q2. シス-トランス異性体が存在するための条件を述べよ。
Q3. 次の化合物のうち不斉炭素原子をもつものを選べ:① CH4 ② CH3CH2OH ③ CH3CH(OH)COOH ④ CH3COOH
分子式 C5H12 で表される化合物(アルカン)の構造異性体を、示性式ですべて書け。また、その数を答えよ。
3種類
① n-ペンタン:CH3CH2CH2CH2CH3
② 2-メチルブタン(イソペンタン):CH3CH(CH3)CH2CH3
③ 2,2-ジメチルプロパン(ネオペンタン):C(CH3)4
主鎖の長さで場合分けする。主鎖C5→①、主鎖C4(枝CH3が1つ)→②、主鎖C3(枝CH3が2つ、ただし対称なので1種)→③。C2を主鎖にする場合は炭素数が足りないため不可。
次の化合物(ア)〜(エ)のうち、シス-トランス異性体が存在するものをすべて選び、シス体・トランス体の構造を示性式で書け。
(ウ)と(エ)にシス-トランス異性体が存在する。
(ウ)シス-2-ブテン:CH3 と CH3 が同じ側、トランス-2-ブテン:CH3 と CH3 が反対側
(エ)シス-1,2-ジクロロエチレン:2つの Cl が同じ側、トランス:反対側
(ア)CH2=:各Cに同じH2つ → 異性体なし。(イ)CH2=の Cに H2つ → 異性体なし。(ウ)各Cに CH3 と H → 2種類ずつ → 異性体あり。(エ)各Cに Cl と H → 2種類ずつ → 異性体あり。
分子式 C4H8O2 で表される化合物のうち、エステル(−COO−)の構造をもつものをすべて示性式で書け。(直鎖・分岐・位置異性体を含む。C4H8O2 のエステル結合をもつ構造を漏れなく列挙する。)
① ギ酸プロピル:HCOOCH2CH2CH3
② ギ酸イソプロピル:HCOOCH(CH3)2
③ 酢酸エチル:CH3COOC2H5
④ プロピオン酸メチル:CH3CH2COOCH3
エステル RCOOR' の構造をもつ。酸部分(RCOO−)の炭素数と、アルコール部分(−OR')の炭素数の組み合わせで場合分けする。
炭素数の分け方:(酸C1, アルコールC3)→①②、(酸C2, アルコールC2)→③、(酸C3, アルコールC1)→④。アルコール部分に分岐があるかも確認する(①②の違い)。