第18章 有機化合物の基礎

元素分析と構造決定

未知の有機化合物の分子式・構造式を実験で決定する方法を学びます。
燃焼させて CO2 と H2O の質量を測る「元素分析」が出発点です。
組成式 → 分子式 → 構造式の3段階の流れをマスターすれば、入試の構造決定問題が解けるようになります。

1元素分析

有機化合物を乾燥した酸素中で完全燃焼させると、C はすべて CO2 に、H はすべて H2O になります。この CO2 と H2O の質量を測定することで、試料中の C と H の質量を求めることができます。

有機化合物(C, H, O を含む)+ O2CO2 + H2O

装置の構成と吸収管の順序

発生したガスを順番に2本の吸収管に通します。順番が重要です。

燃焼管
有機化合物
+ O2(加熱)
→ CO2 + H2O
① 先に通す
塩化カルシウム管
CaCl2
H2O を吸収
② 後に通す
ソーダ石灰管
NaOH + CaO
CO2 を吸収
落とし穴:吸収管の順番を逆にしてはいけない

ソーダ石灰(NaOH + CaO)は CO2 も H2O も吸収します。

もし先にソーダ石灰管を通すと、H2O と CO2 がまとめて吸収されてしまい、それぞれの質量が別々に測定できなくなります。

必ず「塩化カルシウム(H2O吸収)→ ソーダ石灰(CO2吸収)」の順で通します。

順番を正しくする理由
燃焼ガスには CO2 と H2O が混在している
先に塩化カルシウム管 → H2O だけ吸収(CO2 は通過)
次にソーダ石灰管 → CO2 だけ吸収(H2O はすでに除去済み)
各管の質量増加 = H2O の質量・CO2 の質量を独立に測定できる

C・H・O の質量の求め方

吸収管の質量増加から、各元素の質量を計算します。

測定値求める元素計算式
CO2 の質量増加 [g] C の質量 C の質量 = CO2 の質量 × 12/44
H2O の質量増加 [g] H の質量 H の質量 = H2O の質量 × 2/18
試料の質量 − (C + H の質量) O の質量(C, H, O のみの場合) O の質量 = 試料の質量 − C の質量 − H の質量
係数の意味

CO2(分子量 44)の中で C(原子量 12)が占める割合は 12/44。CO2 の質量 × 12/44 = C の質量。

H2O(分子量 18)の中で H(原子量 1×2 = 2)が占める割合は 2/18。H2O の質量 × 2/18 = H の質量。

2組成式から分子式の決定

Step 1:組成式を求める

C・H・O の質量から各元素の物質量(mol)を求め、最も簡単な整数比にします。

計算手順:組成式の決定
各元素の質量を求める(元素分析の結果から)
各元素の物質量 = 質量 ÷ 原子量 (C:÷12、H:÷1、O:÷16)
物質量の比を最も簡単な整数比にする → これが組成式の添字

Step 2:分子式を求める

組成式だけでは分子式は決まりません。分子量(またはモル質量)が別途必要です。

計算手順:分子式の決定
組成式の式量を計算する
分子量 ÷ 組成式の式量 = 整数 n を求める
組成式の各添字を n 倍する → 分子式
組成式と分子式の関係

例:組成式 CH2O(式量 30)で分子量 60 の場合、n = 60 ÷ 30 = 2。分子式は C2H4O2

組成式 CH2O は分子量によってグルコース(C6H12O6、n=6)にも酢酸(C2H4O2、n=2)にもなる。分子量なしでは分子式を決定できません。

3構造式の決定

分子式が決まったら、官能基の検出反応不飽和度の情報を加えて構造式を絞り込みます。

不飽和度(二重結合当量)

分子式 CxHyOz(O は不飽和度に影響しない)の不飽和度は次式で求めます。

不飽和度 = (2x − y + 2) ÷ 2(CxHyOz の場合)

不飽和度意味該当する構造
0飽和C−C 単結合のみ(アルカン相当)
1不飽和度1C=C 二重結合 1 個、または環 1 個
2不飽和度2C≡C 三重結合 1 個、または二重結合 2 個など
4不飽和度4ベンゼン環 1 個(ベンゼン C6H6:(12−6+2)/2=4)

官能基の検出反応

検出したい官能基・構造検出試薬・操作陽性の結果
C=C 二重結合 臭素水(Br2)を加える 赤褐色が脱色される
ヒドロキシ基 −OH(アルコール) 金属ナトリウム Na を加える H2 が発生(2R−OH + 2Na → 2R−ONa + H2
カルボキシ基 −COOH 炭酸水素ナトリウム NaHCO3 水溶液を加える CO2 が発生して泡立つ
アルデヒド基 −CHO フェーリング液(加熱) 赤色沈殿(Cu2O)が生じる
アルデヒド基 −CHO 銀アンモニア水(トーレンス試薬) 銀鏡反応(銀が析出)
エステル結合 −COO− NaOH 水溶液で加水分解(けん化) カルボン酸塩とアルコールに分解される

構造決定の全体の流れ

構造決定の手順
元素分析 → C, H, O の質量比 → 物質量比 → 組成式
分子量の測定(沸点上昇・浸透圧・質量分析など)→ 分子式
不飽和度の計算 → 環・二重結合・三重結合の数を推定
官能基検出反応 → 存在する官能基を特定
分子式 + 官能基 + 異性体の考慮 → 構造式を決定

4計算例題

例題1:組成式の決定

ある有機化合物 0.90 g を完全燃焼させたところ、CO2 1.32 g と H2O 0.54 g が得られた。この化合物の組成式を求めよ。(原子量:H=1, C=12, O=16)

クリックで解答を表示
解答

Step 1:各元素の質量を求める

C の質量 = 1.32 × 12/44 = 0.36 g

H の質量 = 0.54 × 2/18 = 0.06 g

O の質量 = 0.90 − 0.36 − 0.06 = 0.48 g

Step 2:物質量の比を求める

C:H:O = (0.36/12):(0.06/1):(0.48/16) = 0.030:0.060:0.030 = 1:2:1

組成式:CH2O

例題2:分子式の決定

例題1で得られた組成式 CH2O について、この化合物の分子量が 60 であることがわかった。分子式を求めよ。さらに、この化合物が NaHCO3 水溶液と反応して CO2 を発生させることがわかったとき、示性式を答えよ。

クリックで解答を表示
解答

Step 1:分子式の決定

組成式 CH2O の式量 = 12 + 2 + 16 = 30

n = 分子量 ÷ 式量 = 60 ÷ 30 = 2

分子式:C2H4O2

Step 2:官能基の特定

NaHCO3 と反応して CO2 発生 → カルボキシ基 −COOH が存在

C2H4O2 でカルボキシ基をもつ → 酢酸(CH3COOH)

示性式:CH3COOH(酢酸)

補足

C2H4O2 には他にもギ酸メチル(HCOOCH3)という異性体があるが、ギ酸メチルはエステルであり NaHCO3 と直接反応して CO2 を発生しない。カルボキシ基の有無で区別できる。

5この章を俯瞰する

  • 18-1「有機化合物の特徴」との接続:有機化合物の構成元素(C, H, O, N, S など)を理解していないと、元素分析で「O の質量 = 残り」が成り立つ条件がわからない。
  • 18-2「異性体」との接続:分子式が決まっても複数の構造異性体が存在する。官能基の検出で候補を絞り、構造式を一意に決定する。
  • 化学平衡・溶液の章との接続:分子量測定には凝固点降下・浸透圧法(高分子)が使われる。元素分析との組み合わせで構造決定が完成する。
  • 19〜22章(各種有機化合物)との接続:各官能基の検出反応(銀鏡反応・フェーリング・NaHCO3)は具体的な化合物の学習で詳しく扱う。

確認テスト

Q1. 元素分析で塩化カルシウム管をソーダ石灰管より先に通す理由を答えよ。

クリックで答えを表示
ソーダ石灰は H2O と CO2 の両方を吸収するため、先にソーダ石灰管を通すと H2O と CO2 がまとめて吸収されてしまい、それぞれの質量を別々に測定できなくなるから。塩化カルシウムは H2O のみを吸収するため、先に通して H2O を取り除いた後、残る CO2 をソーダ石灰で吸収することで独立した測定が可能になる。

Q2. ある有機化合物(C, H, O のみからなる)0.46 g を燃焼させたところ、CO2 0.88 g、H2O 0.54 g を得た。C, H, O の質量(g)をそれぞれ求めよ。

クリックで答えを表示
C:0.88 × 12/44 = 0.24 g
H:0.54 × 2/18 = 0.06 g
O:0.46 − 0.24 − 0.06 = 0.16 g

Q3. Q2の結果から組成式を求めよ。また分子量が 46 のとき分子式を答えよ。

クリックで答えを表示
C:H:O = (0.24/12):(0.06/1):(0.16/16) = 0.020:0.060:0.010 = 2:6:1
組成式:C2H6O(式量 = 24 + 6 + 16 = 46)
n = 46 ÷ 46 = 1
分子式:C2H6O(エタノールまたはジメチルエーテル)

6入試問題演習

問題1 A 元素分析・組成式

C, H, O からなる有機化合物 X を 0.60 g 取り、完全燃焼させたところ CO2 0.88 g と H2O 0.36 g が得られた。

(1)C, H, O の質量をそれぞれ求めよ。

(2)組成式を求めよ。

(3)この化合物の分子量が 60 のとき、分子式を答えよ。

クリックで解答・解説を表示
解答

(1)C = 0.88 × 12/44 = 0.24 g H = 0.36 × 2/18 = 0.04 g O = 0.60 − 0.24 − 0.04 = 0.32 g

(2)C:H:O = (0.24/12):(0.04/1):(0.32/16) = 0.020:0.040:0.020 = 1:2:1
組成式:CH2O

(3)式量 = 12 + 2 + 16 = 30、n = 60/30 = 2
分子式:C2H4O2

問題2 B 構造決定

分子式 C3H6O で表される化合物 A, B がある。A はフェーリング液を還元して赤色沈殿を生じた。B はフェーリング液を還元しなかったが、金属ナトリウムと反応して水素を発生した。また、B は臭素水を脱色した。A と B の構造を示性式で答えよ。

クリックで解答・解説を表示
解答

A:CH3CH2CHO(プロパナール、プロピオンアルデヒド)

B:CH2=CHCH2OH(アリルアルコール、2-プロペン-1-オール)

解説

C3H6O の不飽和度 = (2×3 − 6 + 2)/2 = 1。二重結合または環が1つあります。

A:フェーリング液を還元 → アルデヒド基 −CHO をもつ。C3H6O でアルデヒドは CH3CH2CHO(プロパナール)です。

B:フェーリング陰性(アルデヒドではない)、Na と反応して H2 発生(ヒドロキシ基 −OH をもつ)、臭素水を脱色(C=C 二重結合をもつ)。不飽和度1は C=C に使われており、C3H6O で −OH と C=C をもつ化合物は CH2=CHCH2OH(アリルアルコール)です。

問題3 C 元素分析・総合

C, H, N からなる有機化合物 0.90 g を完全燃焼させると、CO2 1.76 g、H2O 1.26 g が得られた。N の質量は試料から C と H の質量を差し引いて求める。分子量が 45 のとき、分子式を求めよ。(原子量:H=1, C=12, N=14, O=16)

クリックで解答・解説を表示
解答

C = 1.76 × 12/44 = 0.48 g H = 1.26 × 2/18 = 0.14 g N = 0.90 − 0.48 − 0.14 = 0.28 g

C:H:N = (0.48/12):(0.14/1):(0.28/14) = 0.040:0.140:0.020 = 2:7:1

組成式:C2H7N(式量 = 24 + 7 + 14 = 45)、n = 45/45 = 1

分子式:C2H7N(エチルアミン CH3CH2NH2 またはジメチルアミン (CH3)2NH)

解説(考え方)

C, H, N からなる化合物では、N の質量 = 試料の質量 − C の質量 − H の質量で求めます(O の代わりに N が残る点が C, H, O 系とは異なります)。計算手順は同じで、物質量の比を最簡整数比にして組成式を決定します。