未知の有機化合物の分子式・構造式を実験で決定する方法を学びます。
燃焼させて CO2 と H2O の質量を測る「元素分析」が出発点です。
組成式 → 分子式 → 構造式の3段階の流れをマスターすれば、入試の構造決定問題が解けるようになります。
有機化合物を乾燥した酸素中で完全燃焼させると、C はすべて CO2 に、H はすべて H2O になります。この CO2 と H2O の質量を測定することで、試料中の C と H の質量を求めることができます。
有機化合物(C, H, O を含む)+ O2 → CO2 + H2O
発生したガスを順番に2本の吸収管に通します。順番が重要です。
ソーダ石灰(NaOH + CaO)は CO2 も H2O も吸収します。
もし先にソーダ石灰管を通すと、H2O と CO2 がまとめて吸収されてしまい、それぞれの質量が別々に測定できなくなります。
必ず「塩化カルシウム(H2O吸収)→ ソーダ石灰(CO2吸収)」の順で通します。
吸収管の質量増加から、各元素の質量を計算します。
| 測定値 | 求める元素 | 計算式 |
|---|---|---|
| CO2 の質量増加 [g] | C の質量 | C の質量 = CO2 の質量 × 12/44 |
| H2O の質量増加 [g] | H の質量 | H の質量 = H2O の質量 × 2/18 |
| 試料の質量 − (C + H の質量) | O の質量(C, H, O のみの場合) | O の質量 = 試料の質量 − C の質量 − H の質量 |
CO2(分子量 44)の中で C(原子量 12)が占める割合は 12/44。CO2 の質量 × 12/44 = C の質量。
H2O(分子量 18)の中で H(原子量 1×2 = 2)が占める割合は 2/18。H2O の質量 × 2/18 = H の質量。
C・H・O の質量から各元素の物質量(mol)を求め、最も簡単な整数比にします。
組成式だけでは分子式は決まりません。分子量(またはモル質量)が別途必要です。
例:組成式 CH2O(式量 30)で分子量 60 の場合、n = 60 ÷ 30 = 2。分子式は C2H4O2。
組成式 CH2O は分子量によってグルコース(C6H12O6、n=6)にも酢酸(C2H4O2、n=2)にもなる。分子量なしでは分子式を決定できません。
分子式が決まったら、官能基の検出反応や不飽和度の情報を加えて構造式を絞り込みます。
分子式 CxHyOz(O は不飽和度に影響しない)の不飽和度は次式で求めます。
不飽和度 = (2x − y + 2) ÷ 2(CxHyOz の場合)
| 不飽和度 | 意味 | 該当する構造 |
|---|---|---|
| 0 | 飽和 | C−C 単結合のみ(アルカン相当) |
| 1 | 不飽和度1 | C=C 二重結合 1 個、または環 1 個 |
| 2 | 不飽和度2 | C≡C 三重結合 1 個、または二重結合 2 個など |
| 4 | 不飽和度4 | ベンゼン環 1 個(ベンゼン C6H6:(12−6+2)/2=4) |
| 検出したい官能基・構造 | 検出試薬・操作 | 陽性の結果 |
|---|---|---|
| C=C 二重結合 | 臭素水(Br2)を加える | 赤褐色が脱色される |
| ヒドロキシ基 −OH(アルコール) | 金属ナトリウム Na を加える | H2 が発生(2R−OH + 2Na → 2R−ONa + H2) |
| カルボキシ基 −COOH | 炭酸水素ナトリウム NaHCO3 水溶液を加える | CO2 が発生して泡立つ |
| アルデヒド基 −CHO | フェーリング液(加熱) | 赤色沈殿(Cu2O)が生じる |
| アルデヒド基 −CHO | 銀アンモニア水(トーレンス試薬) | 銀鏡反応(銀が析出) |
| エステル結合 −COO− | NaOH 水溶液で加水分解(けん化) | カルボン酸塩とアルコールに分解される |
ある有機化合物 0.90 g を完全燃焼させたところ、CO2 1.32 g と H2O 0.54 g が得られた。この化合物の組成式を求めよ。(原子量:H=1, C=12, O=16)
Step 1:各元素の質量を求める
C の質量 = 1.32 × 12/44 = 0.36 g
H の質量 = 0.54 × 2/18 = 0.06 g
O の質量 = 0.90 − 0.36 − 0.06 = 0.48 g
Step 2:物質量の比を求める
C:H:O = (0.36/12):(0.06/1):(0.48/16) = 0.030:0.060:0.030 = 1:2:1
組成式:CH2O
例題1で得られた組成式 CH2O について、この化合物の分子量が 60 であることがわかった。分子式を求めよ。さらに、この化合物が NaHCO3 水溶液と反応して CO2 を発生させることがわかったとき、示性式を答えよ。
Step 1:分子式の決定
組成式 CH2O の式量 = 12 + 2 + 16 = 30
n = 分子量 ÷ 式量 = 60 ÷ 30 = 2
分子式:C2H4O2
Step 2:官能基の特定
NaHCO3 と反応して CO2 発生 → カルボキシ基 −COOH が存在
C2H4O2 でカルボキシ基をもつ → 酢酸(CH3COOH)
示性式:CH3COOH(酢酸)
C2H4O2 には他にもギ酸メチル(HCOOCH3)という異性体があるが、ギ酸メチルはエステルであり NaHCO3 と直接反応して CO2 を発生しない。カルボキシ基の有無で区別できる。
Q1. 元素分析で塩化カルシウム管をソーダ石灰管より先に通す理由を答えよ。
Q2. ある有機化合物(C, H, O のみからなる)0.46 g を燃焼させたところ、CO2 0.88 g、H2O 0.54 g を得た。C, H, O の質量(g)をそれぞれ求めよ。
Q3. Q2の結果から組成式を求めよ。また分子量が 46 のとき分子式を答えよ。
C, H, O からなる有機化合物 X を 0.60 g 取り、完全燃焼させたところ CO2 0.88 g と H2O 0.36 g が得られた。
(1)C, H, O の質量をそれぞれ求めよ。
(2)組成式を求めよ。
(3)この化合物の分子量が 60 のとき、分子式を答えよ。
(1)C = 0.88 × 12/44 = 0.24 g H = 0.36 × 2/18 = 0.04 g O = 0.60 − 0.24 − 0.04 = 0.32 g
(2)C:H:O = (0.24/12):(0.04/1):(0.32/16) = 0.020:0.040:0.020 = 1:2:1
組成式:CH2O
(3)式量 = 12 + 2 + 16 = 30、n = 60/30 = 2
分子式:C2H4O2
分子式 C3H6O で表される化合物 A, B がある。A はフェーリング液を還元して赤色沈殿を生じた。B はフェーリング液を還元しなかったが、金属ナトリウムと反応して水素を発生した。また、B は臭素水を脱色した。A と B の構造を示性式で答えよ。
A:CH3CH2CHO(プロパナール、プロピオンアルデヒド)
B:CH2=CHCH2OH(アリルアルコール、2-プロペン-1-オール)
C3H6O の不飽和度 = (2×3 − 6 + 2)/2 = 1。二重結合または環が1つあります。
A:フェーリング液を還元 → アルデヒド基 −CHO をもつ。C3H6O でアルデヒドは CH3CH2CHO(プロパナール)です。
B:フェーリング陰性(アルデヒドではない)、Na と反応して H2 発生(ヒドロキシ基 −OH をもつ)、臭素水を脱色(C=C 二重結合をもつ)。不飽和度1は C=C に使われており、C3H6O で −OH と C=C をもつ化合物は CH2=CHCH2OH(アリルアルコール)です。
C, H, N からなる有機化合物 0.90 g を完全燃焼させると、CO2 1.76 g、H2O 1.26 g が得られた。N の質量は試料から C と H の質量を差し引いて求める。分子量が 45 のとき、分子式を求めよ。(原子量:H=1, C=12, N=14, O=16)
C = 1.76 × 12/44 = 0.48 g H = 1.26 × 2/18 = 0.14 g N = 0.90 − 0.48 − 0.14 = 0.28 g
C:H:N = (0.48/12):(0.14/1):(0.28/14) = 0.040:0.140:0.020 = 2:7:1
組成式:C2H7N(式量 = 24 + 7 + 14 = 45)、n = 45/45 = 1
分子式:C2H7N(エチルアミン CH3CH2NH2 またはジメチルアミン (CH3)2NH)
C, H, N からなる化合物では、N の質量 = 試料の質量 − C の質量 − H の質量で求めます(O の代わりに N が残る点が C, H, O 系とは異なります)。計算手順は同じで、物質量の比を最簡整数比にして組成式を決定します。