第8章 気体

気体の状態方程式

ボイルの法則・シャルルの法則・アボガドロの法則——3つの法則を1本の式に統合したものが気体の状態方程式 PV = nRT です。
この式があれば、気体の圧力・体積・物質量・温度のうち3つがわかれば残る1つを求めることができます。
分子量の決定や混合気体の計算にも使える、気体分野の中核となる式です。

1気体の状態方程式の導出

3つの法則を組み合わせる

8-1で学んだボイルの法則とシャルルの法則を組み合わせると、ボイル・シャルルの法則が得られます。

ボイル・シャルルの法則

PV / T = 一定(物質量が一定のとき)

さらに、アボガドロの法則(同温・同圧のもとでは、気体の種類によらず同じ体積中に同数の分子が含まれる)より、同温・同圧での気体の体積は物質量 n [mol] に比例します。

これら3つを合わせると、気体の体積 V [L] は、絶対温度 T [K] と物質量 n [mol] に比例し、圧力 P [Pa] に反比例することがわかります。

V ∝ nT / P → PV / (nT) = 一定

気体定数 R の値

この「一定」の値は、気体の種類によらず同じです。これを気体定数 R と呼びます。

0℃(273 K)、1.013×105 Pa において、気体 1 mol のモル体積は 22.4 L/mol です。これを代入して R を求めます。

気体定数の計算
R = PV / (nT) = (1.013×105 Pa × 22.4 L) / (1 mol × 273 K)
= 8.31×103 Pa·L / (mol·K)
= 8.31×103 Pa·L/(mol·K) = 8.31 J/(mol·K)

※ 1 Pa·m³ = 1 J(エネルギーの単位)であり、1 L = 10−3 m³ だから
8.31×103 Pa·L/(mol·K) = 8.31 J/(mol·K) となります。

注意:単位の扱い

教科書や問題によって R の値の表記が異なります。R = 8.31×103 Pa·L/(mol·K)R = 8.31 J/(mol·K) は同じ値です。問題文に「R = 8.3×103 Pa·L/(mol·K) とする」と指定がある場合はその値を使いましょう。また、体積の単位が L と m³ で混在しないよう注意が必要です(1 m³ = 103 L)。

気体の状態方程式

n [mol] の気体が温度 T [K]、圧力 P [Pa] のもとで体積 V [L] を占めるとき、次の式が成り立ちます。

PV = nRT
P:圧力 [Pa]  V:体積 [L]  n:物質量 [mol]
R:気体定数 = 8.31×103 Pa·L/(mol·K)  T:絶対温度 [K]
本質:1本の式で4量を結ぶ

PV = nRT は、気体の圧力・体積・物質量・絶対温度という4つの量を結ぶ1本の式です。3つがわかれば残る1つが計算できます。8-1 で個別に学んだ3つの法則はすべてこの式の特殊ケースです——ボイルの法則(n, T 一定→ PV = 一定)、シャルルの法則(n, P 一定→ V/T = 一定)、アボガドロの法則(T, P 一定→ V∝n)。

2状態方程式の使い方

P・V・T・n を求める計算

PV = nRT を変形すれば、4量のどれでも求めることができます。

求める量変形
物質量 nn = PV / (RT)
体積 VV = nRT / P
圧力 PP = nRT / V
温度 TT = PV / (nR)

計算例1:物質量を求める

例題:2.0 L の容器に 1.0×105 Pa、27℃ の二酸化炭素が入っている。この気体の物質量は何 mol か。(R = 8.3×103 Pa·L/(mol·K))
与えられた値:P = 1.0×105 Pa、V = 2.0 L、T = 273+27 = 300 K
n = PV / (RT) = (1.0×105 Pa × 2.0 L) / (8.3×103 Pa·L/(mol·K) × 300 K)
= (2.0×105) / (2.49×106)
0.080 mol

計算例2:圧力を求める

例題:3.0 L の容器に窒素 1.0 mol を入れて 27℃ に保った。圧力は何 Pa か。(R = 8.3×103 Pa·L/(mol·K))
P = nRT / V = (1.0 mol × 8.3×103 Pa·L/(mol·K) × 300 K) / 3.0 L
= (2.49×106) / 3.0
= 8.3×105 Pa

分子量の決定

気体の質量 w [g]、モル質量(分子量)M [g/mol] とすると、物質量は n = w/M です。これを PV = nRT に代入すると、分子量を求める式が得られます。

M = wRT / (PV)
w:気体の質量 [g]  M:モル質量(分子量) [g/mol]
P [Pa]・V [L]・T [K] を測定すれば M を求められる

計算例3:分子量の決定

例題:ある揮発性物質 0.90 g を 0.600 L の容器に入れ 27℃ で完全に蒸発させると、圧力が 9.35×104 Pa になった。この物質の分子量はいくらか。(R = 8.3×103 Pa·L/(mol·K))
M = wRT / (PV)
= (0.90 g × 8.3×103 Pa·L/(mol·K) × 300 K) / (9.35×104 Pa × 0.600 L)
= (2.241×106) / (5.61×104)
40(分子量 40)

求められた値が整数になることを確認しましょう。気体の分子量は整数またはそれに近い値になります。

よくあるミス:温度の換算を忘れる

状態方程式の T は必ず絶対温度 [K] で代入します。「27℃」と書かれていたら T = 273 + 27 = 300 K です。セルシウス温度(℃)をそのまま代入すると答えが大きく外れます。温度換算はケアレスミスが最も多いポイントです。

3混合気体への適用

状態方程式は混合気体にも成り立つ

気体の状態方程式 PV = nRT は、酸素や窒素のような単一成分の気体だけでなく、混合気体にも成り立ちます。このとき n は混合気体全体の物質量(各成分の物質量の和)です。

温度 T [K]、体積 V [L] の容器に、気体 A が nA [mol]、気体 B が nB [mol] 混合されているとき:

PV = (nA + nB)RT

P は混合気体全体の全圧

分圧とドルトンの分圧の法則

混合気体中の各成分気体が、混合気体と同じ体積を単独で占めると仮定したときに示す圧力を分圧といいます。

成分気体 A、B それぞれについて状態方程式を適用すると:

pA = nART / V (A の分圧)

pB = nBRT / V (B の分圧)

P = pA + pB (全圧 = 分圧の和)

「全圧は各成分の分圧の和に等しい」という関係をドルトンの分圧の法則といいます。分圧と物質量(またはモル分率)の関係など、混合気体のより詳しい扱いは 8-3 混合気体と分圧 で学びます。

モル分率と分圧の関係(予告)

成分 A のモル分率 xA = nA / (nA + nB) を使うと、pA = xA·P という関係が成り立ちます。これにより、全圧と組成から各成分の分圧をすばやく求めることができます。詳しくは 8-3 で学びます。

4この章を俯瞰する

第8章の気体の法則は、次の流れで理解すると整理しやすいです。

  • 8-1 ボイルの法則(PV = 一定)+ シャルルの法則(V/T = 一定)→ ボイル・シャルルの法則(PV/T = 一定)
  • 8-2(本節) アボガドロの法則(V ∝ n)を加えて統合 → PV = nRT。気体定数 R が登場し、すべての気体計算の基盤となる。
  • 8-3 混合気体:分圧・モル分率・ドルトンの法則。PV = nRT を成分ごとに適用することで導ける。
  • 8-4(発展) 実在気体と理想気体のずれ:ファンデルワールスの状態方程式。常温・常圧では PV = nRT が近似的に成立する。

PV = nRT は単に「暗記する式」ではなく、3つの実験法則の必然的な帰結です。式の各文字が何を意味するかを理解していれば、変形・適用を迷わず行えます。

5まとめ

  • ボイル・シャルルの法則 + アボガドロの法則 → 気体の状態方程式 PV = nRT
  • 気体定数 R = 8.31×103 Pa·L/(mol·K) = 8.31 J/(mol·K)(気体の種類によらず一定)
  • P・V・n・T のうち3つがわかれば残る1つを求められる
  • 気体の分子量:M = wRT / (PV)(w は質量 [g])
  • 混合気体でも PV = (nA + nB)RT が成り立つ(全圧と全物質量の関係)
  • T は必ず絶対温度 [K](T = t℃ + 273)で代入する

6確認テスト

Q1. 気体の状態方程式 PV = nRT における気体定数 R の値を、単位とともに答えよ。

クリックして答えを表示 R = 8.31×103 Pa·L/(mol·K)(= 8.31 J/(mol·K))。この値は気体の種類によらず一定です。

Q2. 27℃、2.0×105 Pa のもとで、ある気体が 1.5 L を占めている。この気体の物質量は何 mol か。(R = 8.3×103 Pa·L/(mol·K))

クリックして答えを表示 T = 300 K。n = PV/(RT) = (2.0×105 × 1.5) / (8.3×103 × 300) = 3.0×105 / 2.49×1060.12 mol

Q3. 状態方程式を利用して気体の分子量を求めるには、何を測定すればよいか。すべて答えよ。

クリックして答えを表示 M = wRT/(PV) より、気体の質量 w [g]・圧力 P [Pa]・体積 V [L]・温度 T [K] の4つを測定すれば分子量を求められます。

Q4. 混合気体に PV = nRT を適用するとき、n には何を代入するか。

クリックして答えを表示 混合気体中の全成分の物質量の和(nA + nB + …)を代入します。このとき P は全圧になります。

7入試問題演習

問題 A A 物質量 状態方程式

容積 3.0 L の密閉容器に、27℃、1.0×105 Pa のヘリウムが入っている。

(1) この容器内のヘリウムの物質量は何 mol か。

(2) この容器を加熱して温度を 127℃ にしたとき、圧力は何 Pa になるか。

気体定数 R = 8.3×103 Pa·L/(mol·K)

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解答

(1) 0.12 mol (2) 1.33×105 Pa(≈ 1.3×105 Pa)

解説

(1) T = 273 + 27 = 300 K として PV = nRT を n について解く。
n = PV/(RT) = (1.0×105 × 3.0) / (8.3×103 × 300) = 3.0×105 / 2.49×106 ≈ 0.12 mol

(2) 密閉容器(V・n 一定)でシャルルの法則を適用。T1 = 300 K、P1 = 1.0×105 Pa、T2 = 400 K。
P1/T1 = P2/T2 より P2 = P1×T2/T1 = 1.0×105 × 400/300 ≈ 1.33×105 Pa

問題 B B 分子量決定 状態方程式

揮発性の液体物質 1.0 g を、小さな穴を開けたアルミニウム箔でふたをした内容積 0.30 L の丸底フラスコに入れ、沸騰した水(100℃)の中に浸した。内部の液体が完全に蒸発したのち、フラスコを室温まで冷却すると 0.88 g の液体が底にたまった。大気圧を 1.013×105 Pa として、この物質の分子量を求めよ。

気体定数 R = 8.31×103 Pa·L/(mol·K)

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解答

分子量 ≈ 約90

解説

蒸発した気体の質量 w は、冷却後にフラスコ内に残った液体の質量に等しい。穴の開いたフラスコ内の蒸気は大気圧と等圧(P = 1.013×105 Pa)、温度は 100℃(T = 373 K)、体積は V = 0.30 L。

w = 0.88 g を使い M = wRT/(PV) に代入する:
M = (0.88 × 8.31×103 × 373) / (1.013×105 × 0.30)
= (0.88 × 3.0997×106) / (3.039×104)
= 2.728×106 / 3.039×104
89.8 ≈ 約90(実験誤差の範囲内)

ポイント:穴の開いたフラスコでは圧力が大気圧と等しくなり、余分な蒸気は逃げるため「蒸発した量 = 冷却後の液体量」として扱えます。

問題 C C 混合気体 全圧・分圧

27℃において、2.0 L の容器に水素 H2 と酸素 O2 の混合気体が入っており、全圧は 1.5×105 Pa であった。水素の物質量が 0.060 mol であるとき、以下の問いに答えよ。

(1) 混合気体全体の物質量は何 mol か。

(2) 水素の分圧は何 Pa か。

(3) 酸素の物質量は何 mol か。

気体定数 R = 8.3×103 Pa·L/(mol·K)

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解答

(1) 0.12 mol (2) 7.5×104 Pa (3) 0.060 mol

解説

(1) PV = nRT を n について解く。T = 300 K。
n = PV/(RT) = (1.5×105 × 2.0) / (8.3×103 × 300) = 3.0×105 / 2.49×106 ≈ 0.12 mol

(2) 水素のモル分率 = 0.060 / 0.12 = 0.50。分圧 pH₂ = モル分率 × 全圧 = 0.50 × 1.5×105 = 7.5×104 Pa

(3) 酸素の物質量 = 全体 − 水素 = 0.12 − 0.060 = 0.060 mol

得点のポイント
  • 全圧を全物質量に対して PV = nRT を適用して n を求める
  • モル分率 × 全圧 = 分圧の関係を使う
  • 各成分の物質量は差し引きで求められる